本名：アレフ・アミール・アヌシャル・アリエ

中東地域に存在していた小国の権力者兼祭祀者家系であり、いわゆる首長家系の長男として育つ。国のため、将来のリーダーとなるため、日々勉学と修行を行っていた。25の頃、父の仕事の一部を代替わりし、神事の執り行いをすることに…なるはずだった。
その引継ぎの儀式の最中、祀っていた神具が突如目覚め、暴走。その伝説通りの力を振るい、家族どころか国全体があっという間に天変地異に沈むことになった。アレフは辛うじて生きていたが重症を負い、国の惨状を目にする。…そして、その被害が国の外へと出ようとしていることにも気が付く。

「国も自分も、もうダメだろう。だが…これを外に出してはならない。それだけは、せめて防がなくては…！」

その神具には一つ伝わっていた話があった。――この神具に『人の死』を捧げれば、願いを叶えることができる。だから、アレフはそれに念じた。

「己の命・体・精神…全てをあなたの領分へ譲り渡しましょう。代わりに――今すぐ荒れ狂うのをやめ、神具としてまどろみなさい。…これ以上の犠牲は、絶対に出させない。お前はここで私を供に眠るのです」

――そして、その意志を、肉体を、ありようを、神具：天の雄牛は認めて『愛でる』ことにした。

ルカ班隊長、ディビットが小さくも豊かな国が『あった場所』にたどり着いた時。そこには『国だったもの』が、『人であった』ものが集まるだけの空っぽの場所だった。その中で唯一形を保った神殿の中に、半ば遺産と同化した青年を見つけた。

起きた事を聞いて、遺産と同化した体を見て、ディビットはその青年に手を伸ばした。――故郷であった国は地図と、人の記憶から消えた。代わりに得たのは傲慢な神の力と、新しい居場所。

『ルカ班の黄・梓睿』はこうして生まれた

名前の由来
アレフ：知識人
アミール：太子・高官
アリエ：高貴な生まれ
アヌシャルは国の名前（天の牡牛を作り出した天の神アヌの名を借りた）

天の牡牛、もしくはグガランナ…ギルガメシュ叙事詩に記録されている神話上の獣。神々の始祖：アヌによって作られ、愛と豊穣の女神：イシュタルのギルガメシュへの怒りによって差し向けられた牛の姿の怪物。

雄牛は元々地震と夏、強大な力の象徴であり、夏は不作と干ばつが襲う恐ろしい時期であった。イシュタル信仰と共に伝わったグガランナの概念はこの恐ろしさと結びついた。――傲慢を罰する、我らに滅びをもたらすもの。土地を不毛とし、ひび割れ、人の住めぬ場所にする大いなる力…豊穣と愛と戦の女神：イシュタルの思うままに動く、気まぐれで忠実な女神の僕…敬うものには慈悲深く愛を与え、怒りを買えば天罰として遣わされるもの…女神イシュタルへの信仰と畏れによってできた聖遺物。それが天の雄牛だ。

神具として祀られていた時は立派な翼と二本の角を持った黄金の牡牛像の形をしていた。現在は黄の体の半分を乗っ取るような形で存在している。そのため黄が服を脱ぐと、体のあちらこちらに文様が刻まれた金が表面化しているところを見ることができる。

イシュタルへの信仰をあらわにすること…つまりは聖遺物に自身の一部を捧げることで、天罰の力を借りることができる

神代の遺物と同化しているため、日常から乖離しやすい。また『家族』であるルカ班を非常に大事に思い、拠り所としているが、その分それ以外の記憶が飛びやすいという特徴を持っている。そのため、手帳を肌身離さず持っている。

それ故に、アイシェには複雑な思いを抱いている。

「信頼もしていましたし、未だに親しく大事に思ってはいます。けれど、家族の枠組みにはもう入れられない…いつか、彼女を忘れてしまうのは、寂しいですね。とはいえ、私は私の判断が間違っていたとは思いません。理想が合わなかった、ただそれだけです」



彼にとって『家族』はそれほどまでに大事な存在だ。――故に、彼の願った唯一の感情的な願いの籠った、特殊な権利を副官に持たせた。…すなわち、己がレネゲイド災害と化した時…銀弾を放ち、殺すための引き金を。

「えぇ、勿論合理的判断でもありますよ？副官が一番私の近くにいるので。堕ちたら、すぐにわかるでしょう？そもそもレネゲイド災害を抑える側がレネゲイド災害になっては意味がありませんから。そうなったら自分達で始末をつけないといけませんし」
「…でも、ほんの少しだけの我がままも、これに入ってるんです。…体も精神も、私の全ては雄牛のモノ…ひいては女神のモノです。だから、私は何一つ残せない。――だから、私の唯一であり渡せるものは『私の最後』だけなんですよ」
「…ふふ、家族に何か残したい、だなんて…随分贅沢なわがままでしょう？」