履歴
〇月△×日
Agを主成分に幾重にも化合した鉱石から新たなレネゲイドが生まれた。
まるで4歳ほどの男児のような見た目だ。無論無性だが。
検査の結果、バロールの適性を持ってるようだ。あれはオルクスに続いて謎がある。
その解明に役立てばいいのだが…何しろ生まれたてだ。
今後この個体をBa-4711として、随時観察記録を取る。
〇月〇□日
驚いた。この個体は無機物を主体とした肉体を持ちながら、
我々と同じ生活環境で微小ながら身体的成長を見せている。
バロール研究のついでと育ててはみたが、中々どうして、面白い発見もあるものだ。
最近は言語能力も発達しだしたようで、幼児程度の発音をするようになった。
…そんな4711に愛着を若干抱こうとした愚かな奴もいたが、結局それは彼らの
「人間を知る」ことへの一環だと言ったら、渋々承知と言いたい表情をされた。
…わからないものだ。
今後も定期的に記録を更新する。
△月〇日
Ba‐4711が成長を続け1年。
ここまで代わり映えのしない定期報告ばっかりだったが、ついに変化が起きた。
能力を本格的に行使できるようになったのだ。
これまでは知識や肉体の未熟でか微弱なものしか使えていなかったのだが、
これで私も本来予定していた実験を行える。
ただ、衝動の影響だろうか。Ba‐4711は収容室に閉じこもってしまった。
ふいに能力を使ったときにけが人を出してしまったのが原因だろうか?
特に今後に支障のない軽傷なのだから、その程度で動揺されても困るのだが…。
まぁ、時間が解決するだろう。
□月〇×日
Ba‐4711が能力を本格使用できるようになって1年。
その成長はここまでの微小な成長とは代わって加速的なものだった。
本来バロールの能力によって出現する魔眼は体外に複数出現するもので、1月ほどはその通りだったのだが、
個体の右手の甲に変化が起きた。
宿ったのだ、魔眼が。
正確に言うと語弊がある言い方だ。正しく言うなら、「反転魔眼発生装置」といったところか。
大小二つの眼で、その視線の先に複数の球体を生み出すのだ。
この球体の質は通常のものと少し違い、重力をかけるのではなく、重力を一時的に「奪う」効果があるようだ。
そして能力の解除とともに、それまで奪われ続けた重力が一気に戻り、結果通常以上の記録をもたらした。
ついでに新たな謎も。今後この奪う魔眼を反転魔眼と呼称する。
Ba‐4711だが、実験には従順だが、私生活がいままでと大分変わった。
これまでは積極的に我々に接触をはかってきていたのだが、閉じこもりから出て以来、避けるようになった。
…いつまでも閉じこもっていたのにしびれを切らして無理矢理出したのはやはり短絡的だったか…。
☆月〇△日
研究員の多くから、現状のBa-4711の現状のメンタル状態に対する改善を求める意見が増えた。
確かに、現状のままでは何かの拍子にジャーム化してしまうかもしれない。反転魔眼に関する研究も
まだ途中の現状でそれは不味い。人間的に見ればそろそろ物心もつく頃…ここで閉鎖的な性格で
固定するのは変えなくては…。
…そういえば、意見の中に、「同年代位の友達を作らせる」という意見があった。
確か、最近近い年位の少女の話を聞いたのだが…どこだったか。
☆月△×日
思い出した。”イブ”だ。あの妙にBa‐4711に愛着を抱く研究員がその少女の話をしていたのを休憩室にいるとき聞いたのだ。
ということで、早速彼女にBa‐4711を預けることにした。勿論何もなしに行かせはしない。
4711には高濃度の抗レネゲイド薬を詰めたモニター端末を腕に付けた。常に彼の能力値を観測し、
異常を検出した時彼の硬い肉体も貫き刺さる針を打ち込み抑制、すぐに回収する手筈もしっかりしている。
考えてみれば、4711は生まれた後回収してからろくに外に出した覚えがない。
友達という案にしろ、彼にはいい刺激になるだろう。
▽月〇☆日
あれから5年。モニター端末からのアラームが鳴った。それを合図に向かった回収班が見たのは、壮絶なものだったという。
ニュースと報告で知ったが、アラームが鳴る数刻前に、彼のいた場所で武装集団による暴動があったようだ。
その時に、件の”イブ”が巻き込まれてしまったという。
定時報告の内容通りなら、4711は”ギンイロ”という名前を与えられ、イブと相当親しくしていたらしい。
それ故のショックが彼を暴走させようとしてしまったのだろう。
今は深く眠っているが、目覚めた後に暴走しないか、要警戒だ。
▽月△□日
彼が目覚めて2週間。
彼の身体、能力共に間違いなく上昇していた。
よほど外での生活は刺激になったのだろう。この間の一件を除けば彼がモニターのアラームを鳴らしたことは一度もない。
今後は外の生活をさせていくべきなのかもしれない。そう思っていた矢先、良い話が来た。
例の研究員が、「それなら私が引き取ります!」と言ってくれたのだ。
それなら4711…もとい、ギンイロも慣れた環境からなら活動もしやすいだろう。
…被検体を個体名で呼ぶ日が来るとは…少し老いたか。
〇月〇□日
彼らから、年賀状と報告が届いた。
彼は今、能力を有用活用して間取りプランナーの資格を取って不動産で働いているそうだ。
いくらか立ち直り、それなりに元気にしてるという。
…彼の反転魔眼の研究は大方完了した。後は若い者たちが引き継いでくれるだろう。
私ももう定年を超え、いい加減体が動いてくれない。
思えば、私は大分被検体に冷たく当たっていた。今更謝りようはないが、
願わくば、彼らに無理を強いて得た研究成果が、いつか彼らに救いをもたらしてくれることを。
第■■■研究所■■■ ■■所長 Ba‐4711に関する定期報告(中略有)