第一資料

　久留木 染野と聞けば、最初に思いつくのは大手航空会社である久留木航空だろう。実際、彼女はその久留木航空の創設者である久留木 楢ノ木の実子だ。だが現在は完全に絶縁しているらしく、繋がりは残っていないらしい。
　何があったのかは、彼女自身に聞くしかないよ。ただ一つだけ言えることは、彼女が絶縁した時の直近に久留木航空の下請けが一つ倒産したってことさ。

第二資料

｟エージェント録音抜粋｠
「染野さんですか？ああ、いい人ですよ。彼女が遂行した任務においては死傷者が極端に少ないし、上からの非効率的な指示もありません。全て、彼女が責任を被っていますからね。ただ…」
「とにかく質問しやすいし、答えも分かりやすい。しかも、汎用的なトラブルと判断した場合は直ぐにマニュアルを作成しています。ただ…」
「この前、事件の隠ぺいにミスがあって泣きながら始末書を作成していた時は、一緒に徹夜までしてくれました。ただ…」
「本当にいい人なんですよ。ただ1点だけ、まずいところがあって……」

「UGNの労働者は団結せよ！！！」

「「「「ああ言う人なんです」」」」

第三資料

　昔、父の会社の下請けをしていた社長と知り合いになったことがある。別に特別な出会いってわけじゃない。父と話している所に割り込んだ幼い私の話し相手になってくれただけだ。何度か会って、社長さんの娘とも年が近くて、仲良くなった。明るくて、父の偉功が重荷だった私の話し相手にもなって、今思えば親友だったなと感じる。
　転機になる事件が起きたのは、私が高校生になった時だった。久留木航空で大規模な航空事故が発生し、社内で動揺が走る。原因は明確で他社との差を広げるために、およそ久留木航空ではマトモな労働環境を維持できていなかった。後にブラックとも呼ばれるような劣悪な状況で働いていた社員が原因で事故が起きるべくして起きてしまった。
　会社が倒産するような大規模な事故が起きた時に、父が打った手は……下請けに全ての責任を押し付ける事だった。下請けの作った部品に問題があったと偽の証拠を作り、ブラックボックスの中のボイスも金で差し替え、多額の資金であらゆる手を打った。久留木航空にはそれほどの力があった。あってしまった。全ての責任を押し付けられた下請けは倒産。様々な誹謗中傷で社会的な立場は、どん底に落ちた。私がこの事を知ったのは、親友が家族と一緒に自殺した後だった。
　後はまあ、皆も知っての通り。父を半殺しにした時に、ワーディングを感知したUGNに拘束されただけさ。
ただ、許せなかったんだ。金を持っていたら、罪を擦り付けていいのか？コネを持っていたら、何もかも許されるのか？権力や資産は人を狂わせ、罪を帳消しにする。UGNに正式に加入しても、その事実は変わらなかった。どこも同じだ。だからこそ、誰かが……誰かが変えないといけない。もう、何も出来ないまま友達が、仲間が自殺するのを見るのは嫌なんだよ……