生年月日1935/2/4
とある大学の教授。物腰おだやかな老婆である。
退官し、後釜に彼女のひ孫がついた。

日本近代史教授佐野みきゑは昨年亡くなっている。
ひ孫と称している教授は彼女の日記と一生をかけて集めた蔵書から生まれたレネゲイドビーイングである。
彼女がその存在に気づいていたかはわからない。
昨年の夏、佐野教授は自宅の書斎で亡くなった。

ひ孫を名乗る生命体は不思議に思っていた。どうして彼女がつらい、幼少期の記憶を探るのか。
彼女は資料を読むときいつも険しい顔でそれを読んでいた。
それでも彼女は知ることをやめようとはしなかった。

「憎いわけじゃないの。真実を知りたいだけよ」
彼女は決まってこう答えるのだった。

だが、彼女にはひとつだけ触れようとしない記憶があった。

家が、親友が燃えたあの日の記憶だけは。
当事者性が高すぎて触れられなかったのか。
ともかく、彼女は触れようとしなかった。

私は会わねばならない。彼女の記憶の中の親友に。
そして謝罪しなければならない。彼女に代わって。

佐野教授の遺品の本のレネゲイドビーイング：オリジンレジェンドが佐野教授に成り代わっている。
擦り替わるときに教授の記憶を記憶探索者で覗いており、彼女の空襲で亡くなった親友に会いたいと考えている。

料理は下手である。弁当だが弁当は食べない。

そもそも食べる必要性を感じていない。