某国。「ジェヴォーダン」という名の孤児院に引き取られた彼に待ち受けていたものはオーヴァードの力を使いこなす訓練だった。

日々の訓練は多岐に渡る。

どんな人間とも親しくなる技術、ターゲットへの接近の為の変装技術、望んだ情報を悟られず書き出す技術、あらゆる状況へ対応できるような偽装工作。それはスパイとして求められるものの全てを叩き込まれた。

また、レネゲイドのコントロールの為に同じ孤児同士での訓練(殺し合い)、劇物を飲まされ幾度も死の淵を彷徨い、外出と称し命令されたターゲットを幾度も殺めた。

そんな日々がどれ程続いたのだろう。彼はジェヴォーダンの獣でも目覚ましい功績を収めていた。特筆すべきはその並外れた戦闘力・記憶力・情報処理能力だろう。

ジェヴォーダンの獣は彼への教養として「善行のための悪行は善行」と拐かし、守るべきものは作るな。それはお前の弱みになると説いた。

そうして彼は本当の自分の境界線を失くした。総ては疑うべきもの。信頼してはいけない事。任務地で出会った友人や恋人。総て嘘の言葉で誑かし、任務が終わればそれまで。切り捨てて次の任務へと向かう。

心は壊れ、己の身体に感じるは冷たい血液。善悪の判断は自身の意志に含まれず。軋んだ心は決して戻らないだろう。

それでも彼はジェヴォーダンの獣として任務を果たす。

今回の任務は日本のN市支部への潜入だそうだ。いつも通り任務をこなすだけだ。そう。ただそれだけだ。