元々真宵が持っていた無気力、厭世観というのは性格というより、症状と言えるだろう。
両親の執拗な甘やかしが原因だ。

裏社会から出来るだけ遠ざけたかった両親は、将来的にベンチャー企業の社長になれるようにという教育を施した。
これが実現した暁には、将来（真宵の両親から見て）貧しくなる。
だから、「贅沢できるのは今のうち」と真宵にこの世のありとあらゆる豪遊を経験させたのだ。
結局それは大いに間違っていた。
真宵が一言なにかをしたいと言えば、それは家族はもちろん使用人全員すら巻き込んで大事になったし、「これ以上望むべくもない」クオリティで提供してもらえる。
逆に言うと、「これ以上改善の余地がない」「これ以上自分の意志が介入できるところがない」「やらないという選択肢は存在しない」。

極度の甘やかしというのは、支配になり得るものだ。
かくして少女は欲望を満たすための人形として、生の一切を諦めた。

実際のところ、ヴィカラーラとしてはこの上なく忠実な駒のひとつでしかないにせよ、彼女の愛は本物だ。
とはいえ彼女の愛し方は残念ながら自分を支配した親とまったく同じもの。
全力で相手の願いを叶え、支配する。
ただしヴィカラーラの欲望が遠大なものであるため、その問題が顕在化することはない。
そして、生まれて初めて思い通りにならないものを得た真宵は、ますます空想の中の恋愛に没頭していく。

他のFHエージェントから見た彼女の印象は「任務の時だけ会話が成立する」。
今や彼女の思考回路はヴィカラーラのためだけに動き、全く関わりのない一切の事象について考えることを拒絶する。