こういうものを、「産まれたままの姿」というのでしょうか。ぼうとする頭で、ぱたぱたと慌ただしく部屋を出入りする白衣の方々が、研究員の方たちなのだろうと思っていました。男性のかたはどうやら少し前に部屋の外に追いやられていたらしく、そこには女性研究員しかおらず、タオルケットらしき大きな布地でわたしを包んでくださりました。
「落ち着いているみたいね。貴女、自分が誰だかわかる？」
　タオルケットのような柔らかい言葉で、一人の研究員さんが声をかけてくださいました。
　わたしは、脳裏に浮かんだ言葉をそのまま伝えました。

　アメジスト。誰かを御守りする存在です。

　研究員さんは、なぜだか悲しそうな顔をして、いつのまにか生成されていた髪を整えてくださいました。

　御守りすることは、いけないことなのでしょうか？

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　わたしは目覚めたアールラボという施設の、地下にお部屋をいただきました。
　同じ空間で過ごすことに、特に不平不満はありませんでした。
　たくさんの職員さんがお話に来てくださって、いつのまにかここの職員さん以外の方も来られて、悩みや辛さを話してくだいました。お話を聞くのは好きです。どこまで共感できているかはわからないけれど。皆さんのほっとした顔を見るのは好きでした。
　もちろん外に興味がなかったわけではありません。けれど、わたしはアメジスト。
　欲望なんて抱いてはいけないのです。
　きけば、ヒトを傷つける「ファルツハーツ」という方々や「ジャーム」という存在は、欲望のままに動いているというではありませんか。
　わたしは傷つけるために生まれたのではありません。御守りするために生まれたのです。
　食事を断るのは心苦しかったけれど、硬度を下げるわけにはいきません。
　わたしは、ヒトを御守りする鉱物であるのだから。

　ある日、外出の許可が下りました。どうやらわたしはヒトや[日常]を学ぶ必要があり、その変化を観察する必要があるとのことでした。
「その日は私も同行する。おそらくエージェントやチルドレンなどの監視付きなのだろう。それでも、我々も君たちレネゲイドビーイングを知らねばならない。だから、君の成長を観察させてもらう」
「はあ……」
　我ながら間の抜けた声を出していると、少し頬のこけた黒スーツの男性は、懐から封筒を取り出しました。
「開けてみてくれ。今後、君が成長に必要なものが書かれている」
　言われるがままに開けてみると、そこには『アメジスト　村崎まもり』と書かれていました。
「アメジスト、君の名前だ。外出時は、この名前を名乗るように」
「……まもり」
「『御守りする』、とよく口にしているから……ではないか？」
　名づけることを[命名]というらしい。命が吹き込まれたから、でしょうか。
　目の前のかたは相変わらず真っ黒だったけれど、お部屋の中が急に色づいたのです。
　ここは、こんなにも綺麗な場所だったのですね。
　村崎まもり。こんな素敵な名前を誰がくださったのかしら。
　目の前にいる彼──曲直部さんは相変わらず[アメジスト]と呼んでいるから、きっと違うのでしょう。

　きっと、わたしは、石の輝きを取り戻したのでしょう。
　頬が上がってゆく感覚を覚えながら、
「ショッピングモール、楽しみにしてますね！」
　と答えました。

　お忙しいと他のスタッフさんからお聞きしましたが、お元気ですか。わたしは元気です。


　直樹さんがわたしの研究担当になられてから、何か月経ったのでしょうか。
　今、毎日が楽しいです。直樹さんがかけあってくださったおかげで、こうして高校にも通えて。真宙や茜が通う高校と迷ったのですが、サーラが通っている第三加茂芽高等学校に通うことにして、[日常]にたくさん触れて。今とても充実しています。（今ならいえるのですが、実は制服がかっこいいなって思って選んでしまいました！学年も違うし在校生が多いので会えていませんが、サーラのようにかっこよくなりたいですね！）[日常]を知るたびに、様々なことを学びました。カウンセリングの時も様々な{非日常]側の方がいらっしゃいましたが、それは[日常]も同じようです。心暖かい方、心無い方、様々です。

　ヒトを知るたびに、わたしは良い意味でも悪い意味でも変化がたくさんありました。前よりも人との距離感がわかったような気がするし、素敵な一面もたくさん知れました。でも同じかずだけ、恐れや躊躇することもありました。あのショッピングモール事件の時のような純粋さは、今のわたしにはないのではないか、宝石のレネゲイドビーイングとしては失格なのではないかと思いました。
　それでも、わたしは、彼ら彼女らを御守りしたいです。善なる人が傷つかないように。悪なる人が傷つけないように。できるかぎり、御守りしたいのです。直樹さんのおっしゃったように、ここで学んでよかった。これからも、学んでいきたいです。
　
　毎日を一緒に過ごしてくださるエテルナさんはとても良い方です。顔を合わせていないわけでなくとも、メールではなく手書きのお手紙を書くようにと、アドバイスをくださったのはエテルナさんなんです。ちゃんとUGNで検閲してくれるからって。

　なので、検閲されていると思うと少し恥ずかしいのですが、また今度、もしお時間あれば久しぶりにご飯を食べたいです。
　無理にとは言いません。どうかご検討ください。

　支部長さんのお仕事も研究も忙しいでしょうが、どうかご無理のないように。


大好きな直樹さんへ。
まもりより