大きな神社の神主一族の次男として生まれる。
　ほとんどの参拝者は軽い願掛けであったが、稀に現実世界に希望を見失い、神に縋ることしか出来なくなった状態の者もいた。環境の都合上そんな人間を見続けていた由良は、神という夢ばかり見て現実を見ることが出来なくなった人間に危うさを感じるようになった。けれどその現実を生きるためにも夢は必要だ。希望のない現実を突きつけたところで追い詰めることにしかならない。縋るだけではない、もっと現実を俯瞰して見つめるための場所として、そして現実を生きるための栄養としての夢をもっと。
　そんな折に、とあるサーカス団が町にやってきた。何気なく立ち寄ったそこで見たのは、ひと時の夢を見せる団員達と、目を輝かせる観客。公演が終わると、人々は開演前よりずっと強い雰囲気を纏って帰っていった。求めていたのはこれだ、と圧倒されつつ公演後の会場を歩いていると、偶然マジシャンの団員と出会う。

「見せてやりなよ、あなたのとびきりの夢を」

そう背中を押された由良は、マジシャン────魔法使いを志すようになった。
　大学生をしつつマジックの練習をし、ネットで公開したりストリートで披露する。マジックも軌道に乗り始め、卒業し本業としてやっていこうと決めたある日、不思議な夢を見た。夢の内容は詳しくは思い出せない。が。「人々にもっと夢を。希望を。救済を」。そんな言葉が頭に響いていた。そして目覚めた彼は、オーヴァードとして覚醒していたのだった。