「ミハィル＝グレイス。…元々妾に名は無かったのじゃが、ヒトの世ではこのような記号が無いと不便と言われてしもうて、とあるヒトに付けてもろうたのじゃ。ミハィルでもグレイスでも、好きに呼ぶが良いぞ。」

「ふむ、ここへ連れられてきた時にも聞かれたのう。(自らの頭上を指差して)…天ツ庭(アマツニワ)と呼ばれる、妾のつまらぬ実家じゃ。連れ戻されぬところを見ると妾を試しておるのやも知れぬな。」

「む？考えたこともなかったの。ヒトや生物には凹凸が多いが、妾にはどれも備わっておらぬ。確かめてみるか？ん？」
…謹んでご遠慮させていただきます。

「………忘れた。この姿になってからは3年程度かの。」

「そうであろ？しかし耳のこれ(イヤリング)と首のこれ(ロザリオ)はこちらに来てから入手したもの故外せるが、頭のこれ(サークレット)はどうしても取れぬ。妾が天ツ庭(アマツニワ)の者であることの証であり…呪いでもある。」

「妾の要望(おねがい)を聞き入れたからじゃ。実際良くしてもろうておる。それと志賀野淳二と言う男に大きな借りがあっての。UGN(ここ)によく出入りすると言うておったので、観察ついでに少々手を貸してやっている。…いや、ここの情報は漏らしておらぬ。誓おう。」

「ほほ、知りたがりじゃの。…ま、よかろ。忌々しいが、これはヒトの言う【神力】や【自然災害】と言うのが近しかろう。地に降ろうと妾は天の者故、ほんの一部ではあるがその力を行使できる。局所的な災害による生物の排除や建物の倒壊なぞ容易いことじゃ。…この権限すら取り上げられたら、妾は本当の意味で"自由の身"と言うことじゃ。」

「……おぬし、命知らずじゃの。使えるものは使う。それはヒトも異形も神も、変わりはなかろう。」

「なに、必要な質疑であろ。されどあまり図に乗らぬことをおすすめしておこう。…この場より疾く退がるが良い。」

能力は恐らくエンジェルハイロゥによる光の銃と酷似したものであると思われる。
本人が弓を射るのではなく、ミハィルの背後に出現後、号令により自動的に矢が放たれる。
戦闘中にミハィルが動いたのは、攻撃を避ける時くらいであった。

ミハィルを貶めるつもりは毛頭ないが、ミハィルは決して俊敏というほどではない。
UGN内部でも優雅に浮遊しながらゆったりとした所作を崩さない。
だからどうしてミハィルが弾丸を避けられたのか、一般人では判別が困難だろう。
しかしエンジェルハイロゥの能力に「神の眼」と名付けられた能力がある。
自身に感じる全ての感覚…いわゆる"知覚"を無駄なく発揮する能力だ。
そもそもミハィルは触れられることを極度に嫌う傾向にあるため、そういった能力の特化は不思議ではないだろう。

同行していた顔見知りのエージェントが負傷した際、ミハィルは心配する素振りすら見せず、手を貸そうともしなかった。
上記で触れた理由もあるだろうが、改めて人とは違うモノであることが容易に汲み取れた。