「将来はお医者さんになって、ママの病気を治すんだ」
幼い果政は病室の母親に純粋な瞳で語った。
心臓を病に蝕まれ、入退院を繰り返す母を救ってみせるのだと、まっすぐな夢を抱いていた。

しかしレネゲイドという反逆者がその夢を打ち砕く。
医大に入学し、夢へと歩む果政だが、母の病もまた日ごと進行していく。
ついにはその成就を待たず、母は命を落としてしまった。
脱力した手を握り悲嘆にくれる果政に、父は明るく語りかける。
「喜べ、お前の母さんは選ばれたんだ」
母はレネゲイドウイルスに感染し、死によって覚醒した。死を乗り越えたのだと父は言った。
その言葉通り、母は息を吹き返した。見違えるように回復し、どの記憶よりも嬉しそうに笑っている。

奇跡を喜びながら、果政は無力を痛感した。己の求めていたものは、目の前の奇跡には並ぶべくもないのだ。
果政は奇跡に憧れ、また憎しみを抱いた。
死を否定する神の祝福、尊厳ある生を奪う冒涜を解き明かさねばならないと、果政はレネゲイドの研究を始め、そして道を踏み違えた。

九→いちじく(無花果)。花をつけない果物。

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