【人格とオーヴァード】と題された一つの論文。
オーヴァード能力は、肉体ではなく精神、人格にこそ紐づいているという理論。
UGN、あるいはFHより流出したその研究。
それを元に、神城グループが行ったプロジェクトの生産物。

まったく同一の人格を一つの肉体で並列覚醒させ、相乗効果により通常の何倍もの強度のエフェクトを発現させようという研究。
当時、別部署で持ち上がっていた、バロールのエフェクトを用いた新世代のエネルギー炉の研究も巻き込み潤沢な予算と共に行われたソレ。
試験管の中で人工的に造られた十二つ子は、機械的な記憶の相互マージを行いながら育てられた。

運命の日、手法の完成。
UGNから入手した、人格転写技術。
元は人工培養した戦闘用人格を植え付けるためのソレ。
最初の4人は失敗して壊れた。
次の4人で問題点が浮かび上がった。
＿＿＿そして、最後の4人は不完全ながら一つとなった。


それは単純なキャパシティの不足。
人格その物が脳に『寿司詰め』にされる規格外の心地。
おおよそ、既存の人類すべてが味わったことのない壮絶な不快感。
レネゲイドとは、意思に呼応し力を振るう。
未知にして膨大なる不快感が、通常の数十倍の出力を出しうる心達を蹂躙する。

”揺らめくオーロラがお目目になった！”
”空を割って大地を見るの！”
”みんなふわふわ雲みたい”
”だけれど全部壊れちゃった”

でたらめな重力。
正しく『でたらめな』な重力場。
方向も、大きさも、波形も、振動数も。
既存の法則が全て崩れた混沌の世界。
音も、光も、運動も、原子の結合も、全てが無意味化した不規則の世界。
宇宙創成の前、別宇宙の理、能力の及んだ範囲は、綺麗な球状の虚無となる。

嵐がやみ、その只中に倒れ伏す『彼女達』
いかなる理か、何故か生きていた彼女達。
それ以来、4人が同時に目覚めることは無くなった。