容姿・経歴・その他メモ

UGN本部では十数年前からデザイナーベビーの開発研究に力を注いでいる．
きっかけは戦闘員の質の向上と均質化のために，デザイナーベビーの技術が利用できると判明したことだ．優秀な兵士を安定的に供給するだけでなく，指揮系統や組織全体の意思決定機関に登用できるような人材の生産を目的とした，特別な型番の研究も行われている．
すでにこれらの研究には膨大な費用と人員，時間を注いでおり，また倫理にもとる人体実験によって多くの犠牲も生み出していた．また，優秀な素養を持つデザイナーベビーの研究と共に，彼らを前線で活躍しうる兵士へ育て上げるための教育にも多大な注力がなされている．
現在はUGNの不断の努力によって完全に技術が確立されており，すでに実戦投入も行われている．

物心つく前から兵士として最前線に投入されるべく，必要な教育だけを受けてきた．
自身の出生が自然なものでないと知ったのは3～4歳の頃，同期のチルドレンたちとのRC技術の成長度に，大きな隔たりを感じ始めた頃だった．
それは同時に，自分の存在を見失うきっかけにもなった．自分の個性や才能は本当に自分のものなのか，これまでの成功が，努力の結果ではなく遺伝的な操作の産物ではないか．一度抱いた疑念は，とどまることなくあふれ続けた．
しかし，たとえ自身の意思ではない「計画された選択」であったとしても，自身に前線に立つ以外に価値を証明する方法がないことは理解していた．
周囲の人間は内に抱える不信感になど気づくそぶりもなく，順調にチルドレンとしてふさわしい能力を備えていく様に喜んでいた．
そして9歳の時に実力が評価され，レネゲイド災害緊急対応班『マルコ』の隊員に抜擢された．いかにデザイナーベビーの完成品であるとはいえ，評議員直下の部隊に配属されるには異例の若さだった．
そして，そこで出会ったのが当時『マルコ』隊長を務めていた横溝伊織だった．横溝もまた私と同じくデザイナーベビーであり，この配属も横溝が私を気にかけ上層部に掛け合った結果だった．
横溝は一度としてデザイナーベビーの在り方について私に説いてくれたことはなかったが，彼の戦場での立ち振る舞いは彼の献身の使命と理想に殉じる覚悟とを，他のどんな言葉よりも雄弁に物語っていた．
自身も彼と同じでありたいと思った．彼が己の出生に誇りを持っていたように，私もそうありたいと思った．
これも計画された遺伝子の賜物か，一度進む道を決めてしまえば兵士としての能力でも精神力でも，何者にも遅れはとらなかった．自身の成長を，秀でた才能を評価されることが嬉しくなった．その身に同輩や大人たちの期待を受けることが，戦果でもってその期待に応えることが，自身にとって最大の名誉にさえ思えた．
『マルコ』の隊長は，隊員の中から特に素養のあるもの数名が候補として選ばれ，12年間の実働経験を積んだ後，最も優秀であると認められたものが選ばれる．
自身を次期隊長候補に推す声が多いのは自然なことだった．自分自身，横溝から受けた恩に報いるためにも，隊長の後釜を継ぐことを強く望んでいた．『マルコ』に配属されてから6年，すでに個人としての能力では現隊長に匹敵する水準にまで達しており，残りの期間も隊長に求められる統率力や指揮能力を養うのに十分な長さだった．誰もが次期隊長候補筆頭と認めていた．
しかし思うようにはいかなかった．横溝伊織隊長が殉職した．
テレーズ評議員の指令を受けレネゲイド災害の鎮圧に向かい，いつも通り任務は遂行されるはずだった．事件の原因となっていた遺産を破壊した直後，爆発的なレネゲイド濃度の上昇が起こり数名の隊員がジャーム化し，その場で処理せざるを得なくなった．その中には，逃げ遅れた市民を庇って被弾した隊長の姿もあった．
ジャームとなった際，隊長は一切の抵抗を示さなかった．助からないと悟った彼は，何のためらいもなく「私を殺せ」と命じた．死の間際，最期に聞いた隊長の声はほとんど言葉の体を成していなかったが，我々の中にその遺志を聞きこぼす者などいなかった．
『マルコ』に限らず，UGNの実働部隊の殉職率は極めて高い．故に不測の事態に備え，常に替えの歯車が用意されている．しかし，隊長だけはそうではなかった．今の『マルコ』には十全に隊長の任を継げる者がいなかった．
私を次期隊長に選んだのは，上層部にとっても苦渋の決断だったに違いない．私自身，今の自分には分不相応な大役だと感じた．しかし横溝伊織の亡き後を任されてしまった以上，泣き言を言っている時間など一秒たりとも無いことは理解できた．幸いにも，『マルコ』の隊員皆が私の隊長任命を歓迎してくれた．
横溝伊織の跡を継いでから1年，私は今新たなレネゲイド災害鎮圧のため“エレウシスの秘儀”の破壊を命じられた．

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