"笑顔がうるさい"、"F市の騒音担当"、"ソーシャルディスタンスの大切さを思い知らせる女"などの評価を受けている彼女は、UGNF市支部においていなくてはならない人材だ。
　どんなに絶望的な状況でもあきらめることはなく、笑顔を振りまく彼女の姿に励まされた職員は数知れず、強大なジャームに立ち向かう彼女から希望を与えられた市民は数えきれない。自身がオーヴァードであることを隠す素振りは無く、街の子供たちからは魔法使いのお姉さんとしてちょっとしたアイドルのような扱いを受けている。
　ただ唯一、書類仕事だけは苦手だったようだが、大切な後輩を失ってから学び始めたのか、以前とは見違えるほどの成長を見せている。

　どんなときも騒音を撒き散らす彼女であるが、静かな時が無いわけではない。例えば、書類整理をしている時。この時の彼女はいつもの姿とは打って変わってピシリと身を引き締め、淡々と書類を片付けていく。たまに思い出したように騒音を上げるが、その声にはいつものようなハリはなく、ずっとこれならいいのにな、と大多数の職員の心が一つになる瞬間だ。
　他にも、当然だが寝ている時。独りでいる時、そして彼女の"過去"について質問した時などは普段の様子が嘘のように口数が減り、声がか細くなるようだ。

　支部に所属されてから長いが、彼女の"過去"について知っている者はそう多くはない。普段はおしゃべりな彼女なのだが、自身の過去については一切の情報を漏らすことは無い。自身の生まれから、幼少期の思い出、学生の頃のやんちゃや成績に及ぶまで、あらゆることが秘匿されている。
　それは、行き過ぎた自己防衛なのか、それとも恥ずかしいからなのか。その真実を知る者は、彼女を除いてただ一人。もしその一人に聞いてみればこう答えるだろう。
　「あれは行き過ぎた愛の果て」

享年26歳。ごく一般的な家庭に生まれ、十分な愛情を与えられ、平均以上の生活を暮らしてきた女性。若くして家族を失ってしまった彼女は、偶然か、神のいたずらか、レネゲイドウイルスに感染しオーヴァードとして覚醒する。
　初日は憧れだった魔法のような力を扱えることに困惑していたが、持ち前の適応力により翌日には慣れ、「電気代が浮く！」「暗いところでも安心！」と楽しみ始める。
　その後UGNからの勧誘を受け、その場のノリで承諾。UGNエージェントとなり、自身が生まれ、育った街を守るために戦いを続けるようになった。
　UGNでの活動を続けるうちに、大切な後輩、”普現(ふげん)・実桜(みお)"ができる。毎日後ろをついて回り、話しかければキラキラとした目で見つめてくる"実桜(みお)"は彼女にとってペットのような感覚であったが、それ以上に大切な仲間であり、後輩であった。
　そんな後輩を守るため、動かすのもやっとな肉体で実桜を庇い、彼女はその生涯を終えた。