10年前、戦力増強として、「オーヴァードの肉体は機械化できるのか。機械化したオーヴァードはオーヴァードなのか」を研究していた田中久満の“ツェーンラート計画”は、UGN全体の研究見直しにより、非人道的な研究であるとみなされた。
研究施設は解体。田中自身もジャーム化していると見なされて凍結処分を受けた。
その研究施設で生き残っている成功例の数は少ない。そして、その実験により救われと言う関係者は更に少ない。その少数の一人であるのが、現在はコードネーム:踊る機械人形“トイ・ソルジャー”と呼ばれる実験体0112、佐島佑來である。
彼は最高傑作である実験体0105に搭載する機能のテスト機としても使用されていたため、脳以外の肉体の機械化は勿論、必要のないデータのインストールも行われている。
実験体0105と違いブラックボックスはほぼないが……UGNは「感情制御プログラム」を危険視している。そのプログラムは思考を制御する者ではないが、ある一過性の感情を刺激するためのものである。彼にプログラミングされたのは「自傷を厭わない」事……彼の衝動と同じである。
これがもし、後付けの衝動であれば……オーヴァードの衝動を抑制する一歩としてこの研究が再開されてしまう危険性がある。
少なくとも、霧谷雄吾はそれを望んでおらず、手元に残した彼へその情報を開示していない。


佐島佑來は田中久満の実の娘である実験体0039と、現在UGNに所属する実験体0105とは顔見知りであり、佐島佑來が一方的にその後の事を心配している。いや0105に対してはそうでもないかも知れない。
ただ、元凶の娘である0039にイイ人ができたと聞いた時、少しだけ驚いた表情を浮かべ、ほっとした表情で微笑んだらしい。

「そうか……彼女はまだ、この世界に希望を持てる余地が有ったのだな」