容姿・経歴・その他メモ

髪

黒

瞳

赤

肌

色白

　──いまでも夢を見る。

　夜の闇にまぎれ、かける鳥の夢。
　忘れたいあの街で、恐怖に震えながらいとおしいひとに背を押される夢を。

　──いとしい人って、誰だ。
　アルフレッド・J・コードウェル。
　カイン先生が、そう言っていた。
　その名前を呼ぶと胸が高鳴るのが怖い。
　思い出すのが怖い。
　そしたら、逃げてまで手に入れた平穏な日々がすべて砕け去ってしまう気がして。

　──怖い。
　昨日と同じ今日が欲しい。
　心のどこかで蟠っている、彼へのくるおしい感情が怖い。
　すこし鴉の爪で突けば消え去ってしまいそうな、あたたかな両親と紡ぐ日常が──こんなにも怖い。

一人称：私
二人称：あんた、あなた

　鴉の塗れ羽のような黒髪を流した、折れそうに細い身体つきの少女。バレエのために限界まで絞られた身体は、衣裳をまとうと切実な努力が垣間見える。

　バレエ部所属。
　好きなものはひとりになれる場所と木いちごのコンポート。
　なぜか年上が好き。できれば髪が長くて、モノクルをつけていたらもっとうれしい。

　17年間平和に暮らしてきた──はず、の、平凡な女子高校生。
　どこか人を近づけない空気を持ち、誰に対してもつっけんどんな態度で接するが、それは他人との距離感の取り方がわからないことの裏返し。
　踊りを習っていて、ひとりで踊るのが好きで、自分らしく輝いている友だちを見ているとなんとなく後ろめたい気分になって。
　それでもずっと何事もなく暮らしてきたと思っているから、何にもなれないまま一生を過ごすのだと考えていた少女。

　けれど、記憶の片隅にちらつく「だれか」の影に、なぜだか知れないけど妙に惹かれる「だれか」に、そうではないのだと言い続けられながら生きていた。
　毎夜、黒い鴉になる夢を見る。思い出さなければいけない誰かに背を押されて、真っ黒な空を鳥になって翔ける夢を見る。
　ただ、夢は夢。自分の生きる現実には関係ないし、想像の翼を広げるは表現者としてよいことだ。
　年を重ねるごとに強くなる世の中の居心地の悪さに身を縮めながらも、この気味の悪い疎外感とうまく付き合ってきたつもりだった。

　夢の本当の意味を知る由もなく、悪い大がらすの娘はいつわりの日常でたゆたっていた。
　こんな自分ともそれなりの友人関係を築いていた同級生が、世を騒がせる殺人鬼として現れるまでは。
　切り裂きジャックが目の前に現れたその時、小玄はオーヴァードとして完全に覚醒していた。“モリアーティ”を名乗るレネゲイドビーイングによる導きが、そもそも彼自身の見立てによるものではなく、もっとFHの深部にいるものの意思であったことも知らずに。

　"切り裂きジャック"──友だちと思っていたはずの少女との邂逅と、その死。
　出会った非日常と、自分が当たり前だと思っていたはずの日常が、薄氷の上に成り立った平穏でしかなかった事実。
　"切り裂きジャック"と、それを生み出したモリアーティの2名を撃破し、N市での事件が終わった後、小玄は逃げるようにその市を去った。その間際に担任だった男から告げられた「アルフレッド・J・コードウェル」という名前にどうしようもない感情の発露を感じたけれど、どこから現れたのかも知れない絆の得体のしれなさへの恐怖が勝ったからだ。
　いまはファルスハーツという組織にいるとても恐ろしくとても尊敬すべき人だということを知ったけれど、それだけ。写してもらったデータは、顔写真だけ切り抜いて全て捨ててしまった。そして、写真と、手渡された連絡先だけは手放せなかった自分の無意識になによりも恐怖した。

　ここに踏み込んだら、自分の立っている日常がすべて崩れてしまう気がして。
　だから、それを全部頭の片隅に追いやった。
　｜クレール《大鴉の娘》──祝福なのか呪いなのかわからないその名前なんか、自分のものじゃないと拒絶した。

　それから。
　それから……

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