死んでいた、筈だった。

目が覚めたら、血だらけの畳の上。
ヤツの食い残した肉片が、服が、のこった顔が。兄と妹と、父と母と。祖父母……家族を、示していた。
身寄りなんてものはない。残ったのは、この猟銃ひとつ。

きっと己は本当に死んだのだろう。家族の無念を聞き届けし神仏の慈悲が、きっと己の魂に告げたのだ。
――殺せ、殺せ！　怪物を、彼らの、家族の怨讐を遂げよ！
なれば、なれば。あの怪物に復讐を遂げてみせようぞ。
そのために己が、二度目の死を遂げることになったとしても。

マタギの青年。よく働きよく食う。
顔に大きな傷跡がある。
片目は完全に失明しており、口の端は大きく裂けたうえで雑に縫い付けられている。
自分の見た目が異質なことをよく知っているので、怖がらせないようにあまり人前で素顔を出さないようにしている。
時偶、村まで行くが、買い物やら客の応対をするのは専ら影の役割で、自分はその近くでアテレコしてる。
が、人が嫌いというわけではなく。寧ろ生活している人間が平和に過ごしているのを見るのは好き。

感情の高ぶりでレネゲイドが暴走しやすく、ノイマンの頭の過剰な回転と合わさってよく鼻血を出しがち。
「別に死ぬわけじゃあねぁもんだで気にすることあーせんだら」と笑っているのは彼の言。
本来東北の人間なのに何故か中部地方寄りの言語を使う。母親の影響らしい。

酒もタバコと雪遊びが好き。趣味で雪像作ったり、拾った木を彫て置物を作ったりもしている。
「いっぱい雪遊びしたらよお。かまくらに火鉢持ち込んでな、ちんちんの網の上で餅がぷうっとなるまで焼くんだわ。したらよぉ、その餅に醤油垂らしてキュッと日本酒と頂くんだわ。それがまたうみゃあもんでなぁ！」

君は雪国の山村の、猟師の家に生まれた。
幼少期、さざれ雪の降る夜。この世のものとは思えない怪物に一家もろとも襲撃され、家族を全員食い殺される。
君も致命傷を負ったのだが――奇跡的に生き延びていた。そして、目が覚めたその日から、自分が人ならざる異能を得たことにも気付いた。
なぜ己だけ生き延びたのか……それは亡き家族の怨念か、寵愛か。あの怪物に復讐を、ということなのか。
かくして君は研鑽を積み、一人前の又鬼となり、今も故郷の村で生活している。
――あのさざれ雪の夜の怪物を討つこと。
それが君の絶対的な使命であり、生きる理由だ。