かつてUGNが人間のエージェントに代わる戦力として動物をオーヴァード化させエージェントとして仕立て上げるという計画の被検体の1匹
実験は成功し高い知能を有したアニマルオーヴァードとして覚醒したものの、実験中の事故により意図せず脱走する事となってしまう
しかしその後にFHのエージェントに捕獲され、とあるマスターエージェントに献上されペットとして飼われることとなった
それからなんやかんやあって、ステイトオブグレイスや他の組織に飼われたり様々な居場所を転々としていた

人の都合によってオーヴァードにさせられたものの、人間の事は恨んでおらず、世話になった人間に対して忠義を尽くす

・1か月前の記録（春宮さんに拾われた日の翌日）
試験中試験中、ただいまマイクの試験中……
あぁ、上手く録音が出来ているようだ

此度の事象の備忘録としてこの記録を残す
スマートフォンやパソコンは使えない事もないのだが、この身体では人間の端末は満足に扱えない
そのため、調達してきたこの端末を使い、音声で記録を行う
私が元々所持していた端末にはロックが掛かっており操作を行う事が出来ないためだ
幸い、十分なクレジットデータは持っていたため新たに端末を入手する事が出来た

おっと、まだ名乗っていなかった
私は“青柳さわら”それが私の名前だ
身に着けていたタグにそう記されていたのだから恐らくそうだろう
残念ながらそれについて何か思い当たる所はないが

私は、負傷している所を香夜弧に助けられ拾われた
自分が何者なのか、何故あそこにいたのかはわらかない
記憶がないのだ
それは相応に不便な事であり、気分の良い事でもない
なるべく早く記憶を取り戻す事が今の私の目的だ

私を助けてくれた香夜弧はとても良い人だ
客観的に見ればこんな得体のしれない存在を、躊躇う事なく保護しそれどころか家に招き入れてくれた
何やら彼女ものっぴきならない身の上のようだが、私に出来る事なら力になってあげたい、そう思う

・3週間前の日付
……記録開始
あれから一週間程が経った
相変わらず記憶は戻らず、私が何者かはわからないままだ

私は、アニマルオーヴァードと呼ばれる存在だ
それを知っているし、この世界やレネゲイドの事、ゆーじーえぬや、ふぁるすはーつなどという組織についての知識も持ち合わせている
どうやら私は、自身に関する記憶のみを失っているようだ
しかし、私には一般的なオーヴァードから見ても特異な技能が備わっているようなのである
これは通常習得できるような技術技能の領域を超えている
私は何か特殊な生い立ちを経た存在である可能性が高い
不思議なものだ

さて、こんな事を悠長に考えていられるのは私の現在の保護者である香夜弧のお陰だ
香夜弧は“武器人間”と呼ばれる特殊なオーヴァードだという
誰かの手に取られる事で真価を発揮する存在
とても興味深い

そんな香夜弧だが、私を拾った日に長らく連れ添ったパートナーから別れを切り出されたのだという
武器となる存在とその扱い手、彼等の関係性が通常どういったものか私にはわからない
しかし香夜弧はその相手に想いを寄せていたのに、あっさりと終わりを告げられ新たな相手を紹介されたのだという
とても不憫な事だ

願わくば、新たな契約相手が香夜弧に幸福をもたらす相手でありますように

・夢を見た日の日付
不思議な夢を見た
あれは私が失った記憶なのだろうか？

私の飼い主であるかもしれない男性
“ダイキチ”という名前であると私は認識していた

そして、私を襲撃したあの動物たち
私の事を番号で呼んでいた
奴らは間違いなく私の事を知っている
あの力はアニマルオーヴァードだ
もしかしたら私は奴らと同じ組織に属する存在だったのかもしれない

奴らによって私は祠？のようなものに叩きつけられて……

これは貴重な情報だ
あそこに辿り着く事が出来れば、私の事が何かわかるかもしれない
また事が落ち着いたら香夜弧に探すのを手伝ってもらえないか相談しよう

そんな香夜弧は、もうずっと前のパートナーである“アキラ”への恨み言や
新たなパートナーになるという“シンメイイン”への不安を口にしている
はてさて、一体どんな男なのやら……

・PC全員が出会った日
実に興味深い1日だった

香夜弧の新たなパートナーであるという“臣”と、突然現れた首のない人間“エンツォ”
2人とも中々に信じ難い存在である事は間違いない

臣は未来が見えるのだという
それが本当であれば恐るべき力だ
しかし、彼から垣間見える憂いのようなモノ
筆舌に尽くしがたい経験をしてきたのではないか

香夜弧は彼を痛く気に入ったようだ
容姿が良ければそれでいいのだろうか
アキラも薄情だとは思うが、香夜弧も香夜弧だ
まぁそれは私が口を出すような事ではない
香夜弧が幸福でいられるのであればそれが一番なのだろう
臣は能力故に心に浅からぬ傷を抱えているのかもしれない
それならば付け入るスキはいくらでもある筈だ
がんばれ香夜弧

エンツォも、なんというか奇怪な存在だ
その見た目もさることながら、私や香夜弧、臣の事を知っているという
だがその供述には大きな齟齬がある
私がイルカなどジョークだとしたら随分なものだ
青柳にサワラ、その上にイルカなど海産物の大渋滞で紛らわしいことこの上ない

だがエンツォの話が本当だというのなら、彼は私達が存在するのではない別の世界からやってきたとでもいうのだろうか？
パラレルワールド理論というのは聞いた事があるが、そんな事が現実に起こりうるとは信じ難い

ともかく、困った事態になったという事は確かだろう
香夜弧と臣、エンツォと協力してお互いの問題を解決していかなければならない

・祠を訪れた日
3人の協力もあり、夢で見たあの祠になんとか辿り着く事ができた
あのジュウシロウという子供は妙な気配を伴っているが、敵対者ではないため様子を見る事とする

それにしても、まさか私が祠に衝突してしまったせいであんな稀有な存在を解き放ってしまっていたとは……
聞く限りでは、おそらく私の記憶が無くなったのはその“名無し様”の仕業である可能性が高い
私は記憶を失うだけで済んだが、その皺寄せがダイキチに及んでいるのだとしたら

……
早く、何とかしなければ

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