櫛灘家という日本の旧家の娘、ということになっている。ただし櫛灘家は既に姫夜を残して全滅しており天涯孤独の身
また、姫夜は櫛灘家の本当の娘ではない
名前も当て字であり本当に込められた意味は「比売代（ひめよ）」比売（ヒメ）の代理（カワリ）である

形代、という呪術思想がある。人形を用意しそこに神霊を宿そうというものが始まりではあるが、身代わり信仰として人間に降りかかる厄災を代わりに引き受けてくれるという厄除け人形にもなっている。流し雛などもこれにあたると言われている比較的わかりやすい呪術である
櫛灘家は古来より続く陰陽師の家系であり、現代にもその仕来りや思想を受け継ぐ『本物』であった

そのため櫛灘家では、将来家を受け継ぐであろう長子が誕生すると、その者に災いが降りかからぬよう『身代わり人形』を用意していた
長子と同じ時間に生まれ、性別や血液型など可能な限り『同じ』になる存在を探し、『回収し』て、代わりとなる名前を与え、閉鎖環境で育成、否、『作成』する。長子と可能な限り同じになるよう口調を真似させ、仕草を真似させ、身長や体重に至るまで管理し近付ける。そうすることで長子に降りかかる厄は全て、身代わり人形に流れると信じられていたのだ

前述の通り、姫夜は本来櫛灘家の生まれですらない。ただ生年月日や血液型が近かったからと本当の家族から奪われた『身代わり人形』だったのだ

しかし、壊れるまで使われるだけのはずだった身代わり人形は表に出ることになる。UGNで『クシナダ事件』と記録に残る事件が彼女の運命を変えた

当時山奥に存在した櫛灘家の本家で突如発生したレネゲイド事件。その時本家のあった場所から確認されたレネゲイドの濃度は、強力なレネゲイド災害の発生を思わせる膨大なものであった。付近のUGNは当然至急に調査を開始

櫛灘の長子の誕生日を祝うため一族とそれに仕えるもの全てが集まっていたその夜
現場ではその全てが無惨に殺害されているのが発見された。唯一人生き残り、現場で保護されたもの。それがオーヴァード化したばかりの姫夜であった

UGNのその後の調査の結果、判明したこと

櫛灘家の長子は直近にオーヴァードに覚醒していた。これ自体はおかしなことでもなく一族にはオーヴァードが幾人もおり、陰陽術という思想に基づきつつも能力者として独自に知識を伝えている家系ではあった
一族の後継たる者の覚醒。そのため一族の者は「当然、形代も『同じ』であるべきだ」と考えた
形代として保管されていた姫夜に命令し、高濃度のレネゲイドを浴びせ、強制的にオーヴァードへと覚醒させようとしたのだ

事件に対してUGNの出した結論は「その結果覚醒した姫夜が、覚醒時の衝動に耐えられず、自身を閉じ込めていた一族への殺意で暴走、殺戮を繰り広げた」というものだった
当の本人は自分はそんなことはしていない、と否定したが証拠は無く、他に殺戮を起こせそうなものもおらず一人生き残ったことに説明もつかない。覚醒時に衝動に呑まれて我を失い記憶が飛ぶこともある
当時の研究者や調査員の誰もが思ったのだ

「そもそも無理もない。こんな酷い境遇に押し込められていたのだから」

当然殺戮は良くないことである。しかしそんなことをしても仕方ないような境遇だったのだ
そんな印象も手伝い真相は決定された

しかし同時に、それだけのことをした少女は危険とされUGNの厳重な管理下に置かれることになった

本人には秘密にされているが、姫夜は虐殺を行った、暴走すると危険な個体として厳重に管理がされていた。暗示を何重にもかけ、その能力を制限し、成長がしにくいようにロックがかけられていた。訓練を真面目に行っていても能力が伸び悩み弱かったのはそのせいである
現在、賢者の石を宿したことで急激に能力は伸び始めている。彼女にかかっていた蓋が、石をきっかけに外れたのかもしれない