水布市立高校剣道部在籍のUGNチルドレン。通学は本人の強い希望からであり、任務等が関わっている訳では無い。幸いなことにUGNエージェントが教員の立場で在籍している為、融通が効く動きができるようになり現状損のない状態と言える。

厳格なUGN支部長を父に持つ経歴から、どれほどの人物かと妄想する事は誰でも容易く行えるが、相対した倉木 永門という人物との擦り合わせを容易く行える者は少ない。

彼は問題の無い模範的UGNチルドレンと言える。独立した芯のある正義感を持ち、信頼出来る仲間を持っている。不安点を挙げるなら、目的の為に自らの犠牲を厭わない事や、純情な精神性だろう。それについては、我々大人が導かなければならない。

彼が最も信用を寄せる人物は皆が口を揃え、十六夜 星月夜と答える。倉木 永門公認であり疑念を挟む余地はない。
覚醒してから暫くは、様々な要素が重なり精神が不安定な状態だった。その事に無理もなく、当然の出来事だ。しかし、十六夜 星月夜の支部加入により驚くべき好調を見せた。
それからは心身共に研鑽されており、今ではこの支部で連携に最も長けたコンビと言っても良い。その証拠に、大事に至らぬまま解決された任務は数知れない。
日常生活も共にし、支部でも学校でも、2人セットの絵面がよく知見されている。

「あいつの覚醒は、事故とか事件のはずみなんて比じゃねぇ。正直言うと、イカれてる」
────水布支部エージェント、倉木永門をよく知る者より。

この資料は本人、倉木 永門及び現水布支部長倉木 鳴裟の証言に基づく、閲覧には当事者二名の許可を取ること。
齢八年の初夏、廻り咲き事件の始まりと同時期に夏休みへ突入した彼は、より一層研鑽に身を馳せていた。
ある日、道場の床下が何者かによって空いているまま放置(※該当者処罰済)されていたのを目撃した彼はそのまま下へ降り、資料室にて数件の文献を閲覧してしまった。オーヴァードであれば知って然るべき基本的な能力、そして数ある覚醒条件の一例を。
後に倉木 永門は「もっと強くなれる方法があるんだと嬉しくなった」と宣った、詳細は別資料に記載済。
その晩、倉木 永門が道場で喉元を切り裂き、数分後再生した映像が防犯用記録媒体にて保存された。

強さの為に躊躇いなく自死を選べる少年を我々は正しく育めたか、獅子奮迅の活躍をする彼を見る度に分からなくなってしまう。

ここに、彼と任務を遂行するに辺り頭に入れておくべきことを記す。
・武装について
《暁刀【薄明】》読みにしてギョウトウ。
一見して変哲のない木刀であるが、担い手が握ると忽ち刀身が鞘と成り、抜刀すれば暖かな光を薄く放つ真剣が姿を現す。
木刀のまま扱う事で殺傷性を抑えながらも武器が持つレネゲイドで充分のダメージを与えることが可能、よって余程のことがない限り抜く事はない。
決して倉木 永門以外の者が振るってはならない。木刀の段階で振るおうとすれば、拒絶するように増す重量に耐えかねてしまうだろう。
真剣を手にしてしまえば、次第に手のひらが焦がれ、尚離さなければ手のひらに収まることはない。
”決して倉木 永門以外の者が振るってはならない”
また、手にした経緯は別資料に記載済。倉木 永門及び十六夜 星月夜、そして保管責任者の許可を取って閲覧する事。

・力の在り方について
大きく分けて二種類存在するとされるノイマンの在り方のうち、直感型に属するとされる。
だが、本人によれば”受信”に近いと語る。そうして得た事実が外れた前例は無い為、どれほど突拍子が無くとも疑う事は推奨しない。
尚、これは懸念を抱くなという意味合いではない為、付記した聴取記録を拝聴した上で判断を委ねる。
「その閃き、なにか原因はあったりする？」
「んーや、まるでないんだよね。あーでも、凪いでる時によく来るかな」
「凪いでる？」
「うん、道場とかで精神統一してる時に、急に耳鳴りがするんだ。あとは散歩したりしてる時とか」
「耳鳴りね...それはどれくらい大きい？」
「かなり大きいよ、周りの音が聞こえないくらいだもん。んで、なんならたまに頭痛までする」
「エフェクトの無意識使用ではないんでしょう？」
「前の任務でたまたまレネゲイド計測器みたいなの持ってる時に来たけど、ぜんっぜん上がってなかったから違うと思う」

最初はただの猫探しの依頼だったという。十六夜 星月夜と倉木 永門は定期的に任務とは関係なく、町の何でも屋みたいな事をやり、町の住人からはとても感謝されている。その日は、三丁目長谷川さん家の脱走した猫を探して欲しいと依頼を受けた2人は、難なく猫を見つけることができた。しかし、猫は常に何かに怯えており落ち着きがなかった、永門が心を通わせ事情を聞くと"水蛇山"の方からこわい気配がすると訴えられた。猫を届けたあと、2人は山へと乗り込んだ。この時我々もあのような大規模な出来事が起こるとは思いもしなかった……
山に入った途端、2人は異様な空気をすぐに感じ取ったと語っている。山の中では有象無象のジャームが大量に発生しており、2人は町に被害が出ないようにジャームを減らしながら山頂へ向かった。山頂には推定千年は生きているとされる、巨大な御神木。そこにはFHのエージェント達が集まり、神木に集まる霊力を使って大量のジャームを生み出し、水布市を占拠する侵攻作戦を企てていた。2人はそれを阻止すべく即座に動き、FHエージェントの拘束に成功。その際、倉木 永門が使っていた刀が折れ、窮地に立たされたところ、御神木から折れた枝を使って凌ぎきった。
最後は暴走した御神木を斬り倒す事で、大量に発生したジャームを消失させたことで事件は収束に向かった。

水蛇山の山頂にあった御神木は、山の中を流れる川から起こる水害を沈めるために植えられ、人々の暮らしを守るため存在していた。御神木は最後の力を振り絞り、自らの力で災害を起こさせないようにするために、その枝を分け与えたのではないだろうか。
しかし、そう言った事は行動を起こす前に報告して欲しい。二人が支部内でも屈指の強さを誇るは分かっているが、こちらにも事情があるのだ。特に......いや、これ以上は私情となるためこれで記録を終了とする。

彼は父親の道場で習う太刀筋を辞め、独立した型を扱っている。
-日出-(ひので)
どんな状況であれ崩れることのない一閃を、常訪れる朝焼けに見立てた技。人はただの一振りというが、真髄は精密さである。
-綾断-(あやたち)　
遺産回収時のトラブルで相まみえる事となった人ならざる者。真剣を抜き相対した経験は、彼に新たな光を掴ませた。
あらゆる状況に順応する技を、反撃に使う閃きの太刀。ただ鋭さに賭けたその技を、彼は舞う紅葉を断つ様に重ねて綾断と付けた。
-日出流転顕界-(ひ、いずりしはるてんのげんかい)
世の理と称される"絶対"を翳す太刀。自身の感覚を使いこなし、確実なる斬撃を与える。
決して堕ちることのない太陽のように、ただ絶対的な強者でこの大地に在る為の技。
-日輪如王莽時-(にちりんがごときおうまがどき)
紅葉や王莽が時にも似た赤く燃ゆる日輪に踏み出せば、それがどうなるかなぞ明らかだろう。そのように、他の技とは違い、待って必然を用いて敵を薙ぎ伏せる技。