私の知らないところで、世界は大きく変貌していたらしい。
それを守ろうとする者も、壊そうとする者もいるらしい。
でも、私のセカイが変貌したのは、間違いなくあの日だった。
あの日――

彼は漫画家志望だった。
私も彼もまだ若くて、夢がたくさんあって、目の前のすべてが宝石みたいにキラキラ輝いて見えていた。
私は就職していたし、彼もバイトをしてくれていたから、彼が夢を追いかけながらでも私たち二人は問題なく生活できていた。

彼は口癖のように言っていたっけ。
「漫画家として一人前になったら、君を安心させられる男になったら、僕と結婚してほしい」って。
今でも十分、あなたは私の心の支えだよ、なんて言おうと思ったけど、やめた。
彼なりの固い決意を邪魔したくなかった。
二人で約束したんだ。「連載を持てたら結婚しよう」って。

ある日。彼は連載とはいかなくても、有名な雑誌のコンクールで結構良い賞を取った。
文字通り飛び上がって、二人で抱き合って喜んだ。
そこまで大きな額じゃなかったけどちょっとした賞金も出たから、二人でちょっといい食事をして、あとは貯金しようということになった。

でも、彼はちょっとだけ私に嘘をついた。
ホテルのディナーを食べ終わった後、彼は照れ臭そうに「賞金、ちょっとだけ使っちゃった」と言って、私に細長い箱を手渡した。
――黒曜石のペンダントが、そこには入っていた。
「なんだかこのペンダントに呼ばれた気がして……君に似合う気がしちゃて。どうしてもプレゼントしたいって思ったから、賞金ちょっと使っちゃったんだ。ごめんね」
「婚約指輪を送れるのは、まだまだ先になっちゃうかもだけど――これは、婚約の婚約っていうか……とにかく、約束のしるしだと思って欲しいな」
って、彼は真っ赤になりながら言った。

嗚呼、愛おしいってこんな感情の事を言うんだろうな。
私はボロボロ涙をこぼしながら、何度も何度もありがとうって言って、彼から受け取った黒曜石のペンダントをきゅっと抱きしめた。
私は、幸せの絶頂だった。

――私のセカイは、その日に変貌した。

……そこから先の記憶は、ひどくあいまいだ。

レネゲイドが生み出す、狂気と衝動の奔流。
燃え上がるホテル。殺し合う人々。変わり果ててしまった――大好きだった彼。

ただ一つはっきり覚えているのは、誰を殺そうかとギラギラぎょろぎょろ辺りを見回しているのに、私からは必死に目をそらし続けていた、彼の瞳だけだ。
ああ、こんなわけのわからない状況になっても、ひとかけらだけ残った理性で、私を傷つけまいと必死に抵抗してくれているのだ。
そんな、変わり果ててしまった彼が、愛おしくて、悲しくて、狂おしくて、

私は、
彼を、