松園 育 性別：男 年齢：47|

松園育は平凡な家庭の出身で、平凡に育ち、平凡に結婚し、平凡に子を育んだ。
刑事としての仕事は激務ではあったが、理解のある妻と愛しいわが娘に囲まれ、幸せだった。
だがあるとき彼の平穏は奪われた。とあるカルト集団への捜査。幾つも支部があるそのカルトを虱潰しにし、ようやく本丸へと足を踏み入れたその時。
カルトのでたらめな詠唱が成功し、時空が歪んだ。ここに居るはずのない妻子。ともに突入した同僚、部下たちの大切な人たちもそこに居た。
そして中央にはわけのわからない怪物。まずカルトがその怪物に殺され、次は松園達の番だった。
なんとか妻子を逃がそうとするも、時すでに遅し。自身が殺されそうになる最中、最後に見たのは娘の顔だった。

――そして死から目が覚めた時、視界に映るのは消滅してゆく怪物と人の死体、死体、死体、一人の魔女と、娘の体になった自分の両手だった。
魔女は言った。貴方は死にました。貴方の妻も、娘も、同僚も、その大切な人たちも。
魔女は続けた。でも貴方の娘は最後に願いました。お父さんを助けてと。肉体は死んでも精神が残った貴方と、精神の死を迎えて肉体が残った貴方の娘。私に遺されたのは、貴方の精神を貴方の娘の体に結び付けることだけでした。
彼は理解した。妻は死んだ。娘も、もう会えない。残されたものはこの体だけ。
娘は言った。お父さんを助けて、と。死ぬことは許されない。でも、生きる意味も見いだせない。
魔女に彼は言った。これからどうすればいいのか、と。
魔女は答えた。私の元ならば、なにかお手伝いできるかもしれません、と。
彼は、松園育は魔女についていくことに決めた。