「むかぁし、むかし。そこには何の変哲もない、暖かくて優しい一家がおりました。
　優しい両親とかわいい妹達に囲まれて、長女はそれはそれは幸せな日々を送っておりました。
　ええ、何の問題もありませんでしたよ。ただちょっと、"お姉ちゃんだから"譲ってあげることが多かったぐらいで。
　おやつのケーキ。お気に入りのおもちゃ。見たいテレビ番組。親からの愛情。
　全部、譲ってあげました。だってお姉ちゃんですから。

　そんなある日のことです。長女は原因不明の高熱を出して倒れました。
　高熱は長く、長く続きました。子供の身では峠を超えられないと、医者にも匙を投げられるぐらいの、それはひどい高熱でした。
　当然、両親は長女を賢明に看病しました。子供思いの、優しい両親でしたから。
　このままずっと熱を出していたら、両親のことを独り占めできるのではーーなんて暗い感情が、全くなかったとは言いません。
　けど、それが両親にとって大きな負担となるのは明らかです。
　いっそ、このまま終わって楽になるべきなのか。長女は朦朧とした頭でそんなことを考えていました。

　結局、長女の熱はある日嘘のように収まって、一命を取り留めました。
　そして、長女はいつの間にか、超人(オーヴァード)に覚醒していたわけです。
　家族？　変わってませんよ。今までも、これからもね。

　……何て顔してんですか。
　あたしがいじめたみたいに思われるじゃねーですか、やめてくださいよ」