ジャーム化の存在を知った瞬間に、疑問を覚えた。彼らを凍結保存し続けることは安寧であるのだろうかと。
　社会的には死んだものとして扱われ、葬式さえ行うものもいるだろう。
　眠らせ続けるにはベッドが必要で、生かし続けるにはコストがかかる。未来にかけるとは聞こえがいいが、未来を食い潰すとまで考えるのは極論か。眠り続けるものはそれを望むだろうか。そもそも安心して眠れているのだろうか。苦痛の中にあり続けるのではないか。ひとつひとつベッドが埋まるたびに思考は渦を巻いていた。

　しかしある時、いつまで経ってもベッドが埋まりきらない事実に気付いた。絶対数が少ない異能者の中からさらに「ジャーム」を選別し、眠らせるためのベッドは当然多くはない。近年増え続ける異能事件に追いつくものではなかった筈だ。
　何故そのベッドに空きが？
　ジャーム化した人間は、社会的には死んだものとして扱われる。理性のある異能者だったり、人間の表情が伺えたりすればまだ温情はある。
　ジャーム化した人間は人権を失うのだということを、思い知らされた。
　察しの通り、月並みに、ジャームは消費されていたのだ。
　元々そこは治療のための施設だったのだという。だがそんなものは名目でしかない実験施設に変貌していた。
　慟哭が鼓膜を揺るがし、あるいは苦悶を網膜に刻み、自身の優柔不断を悔やんだ。

　そう、初めてジャーム化の存在を知った時に、結論は出ていた。
　今の世界でジャーム化とは死だ。ゆえにジャームは殲滅する。

「顔つきが険しい」
　あれは私が特にそんな指摘を受けていた時分。
　ジャームは殲滅すべき対象と心の決め、エージェントとして邁進する最中でのことだった。
　街中でふと、学生が目に入った。見知った顔がいたのだ。
　彼は私がかつて指導を行いったチルドレンだった。数々のジャームを葬り、違う支部に移ってなお活躍を期待していた。
　しかし彼は私の知る彼ではなかった。学友と歩幅を共にする彼の表情は私の記憶の中に1秒とも無いものだった。
　その時に気付いた。彼は本来ならあのように笑う少年だったのだ、と。
　彼に背負うのは重すぎる重荷を背負わせてしまっていたのだ、と……

　私は自らの決断を押し付けていたのだ。私が背負うべきものを他者に背負わせてしまっていた。

　私はその場で少年に2度と会わないことを決めた。私が出会うことでチルドレンのことを思い返させないためだ。
……しかしこれが本当に決断であったのか、逃亡しただけだったのか。
　今でも少し思い返すのだ。

■シナリオデータ

プレイ人数：4人
PCの消費経験点：初期経験点+108点(内8点EE分)
プレイ時間：10~12時間
GM必携サプリ：上級、IC、UG、EA、LM
勝手に追加：HR、BC、RW、IA、UA
エネミーにIA適用してないらしいけど頑張って適用できるところはします
ミストルティンは相談してください。できるだけ殺します。

■トレーラー

ひとりでは外に踏み出せず
ひとりでは行き先を見失い
ひとりでは何もかも忘れて
ひとりでは到底不可能だった
思い出せ、これは打ちのめされた者たちのモラトリアム

ダブルクロス The 3rd Edition
『ノックアウトマウスの遺言』

──お前は何がしたい？

ハンドアウト

PC③：遊木支部を束ねる支部長

ワークス/カヴァー：UGN支部長/指定なし
ロイス："キャリアー"
推奨感情：P指定なし/N脅威
数年前より何件ものをジャーム暴走事件を引き起こしてきた変異種モラトリアム、そして市内を無作為に襲撃するオーヴァード"ムラギリ"。そのどれもがUGN遊木支部を率いる立場であるキミの頭を悩ませる。
ワーディング警報を受け駆け付けた先で待ち構えていたのは、数日前に支部から拉致されたチルドレン──"キャリアー"だった。

◆特記事項
PCは本シナリオ中以下の効果を得る。
PCは《王者の威声》《戦闘陣形》《速攻態勢》(EAp161~163)の中から1つ選び、Lv1で自動取得する。
このエフェクトは経験点を使用して成長させてもよい。エフェクト使用時、効果に同意した相手をトループとみなしてよい。