四人家族だった。
優しいおかあさんと、優しいおとうさんと、優しいおにいちゃんがいた。
毎日とってもすてきだった。勉強をしたりお裁縫をしたり、お話をして暮らしていた。
なんの不自由も不満もない、当たり前の日常。……それは唐突に崩れ去った。

戦争。

その悲劇はたったの二文字で終わらせる事が出来る。
町がへこんで、学校が焼け、公園からは腐臭がした。
知らない人がたくさんで、あぶないから、みんなで逃げて……、

クロエ、こけちゃったの。

そしたら、鉄とか、木とか、いろんなものが落ちてきて。
……気付いたら、おにいちゃんが、クロエのいたところにいて。
えっと、それで、それで？でも、だから、えっと、うーん、……わかんないや。

最期まで自分を愛し、守ってくれた兄の姿を探し、求め、そして彼女は、
子供にしばしば見られる想像上の友達、イマジナリーフレンドを━━創りあげた。
その強すぎる想いはやがて死者の姿になり、声になり、温度になり、人格となったのだ。

戦争に際して避難する際、子供達とはぐれてしまった不運な夫婦。
娘を見失い、それを追って走った息子を探し回ってようやく見つけたのは、
倒壊した建物に潰された息子と、その目の前で茫然とそれを見つめる娘だった。

娘に近寄り話を聞こうとして、気付く。
彼女の、影が無い。

…

ティーチャー・シャウラがクロエを迎えに来た事に関して最初は好意的ではなかったが、現在よりも安全な場所に避難できることや落ち着いて療養できることを考慮してやむなく了承した。

赤#D10042
青#1500d1