生まれる前後の話

金烏家はかつて太陽の化身と交わった巫女の家系であり、その真偽こそ定かではないが、代々女児ひとりしか生まれない。
そして生まれるものは必ず巫女としての神通力……すなわち優れたオーヴァードとしての力と、それを発揮した時に金色を纏う黒い烏の翼が背に生じるようになる。
しかし暁羽の親は違った。
生まれたのは男女の双子だったのだ。
結論としては姉である『琴羽』が跡継ぎとなり、弟は存在しなかったものとして地下の座敷牢に幽閉され、名前も与えられずにかろうじて生きることだけは許された。
琴羽は金烏の巫女としてはあり得ないほどに力が弱かった、翼も片方しか生じなかった。
裏社会での立場や神通力の弱まることを恐れた支持者たちは次の跡継ぎを求めて婚姻の予定を早めた。
婚姻も間近、琴羽が14になった頃に事件は起こった。
琴羽が弟を連れ出して脱走したのだ。
逃走劇は1年足らずで終わり、しかし連れ戻されたのは琴羽だけだった。
弟は命を落とした。
けれども琴羽もそれだけではなかった。
琴羽は身籠っていた。
誰の子か、琴羽は決して口にせず、ただ微笑むばかりだった。
そしてこの件を境に琴羽の翼はなくなってしまった。
その後、暁羽はこの世に生を受けることになる。
暁羽はオーヴァードとしての優れた素質を持ち、母とは違ってしっかりと両翼を備えていた。
しかしそれは、背に生じたその翼の形は……。

金烏 琴羽(カナウ・コトハ)

暁羽の母であり、金烏家の名ばかりの現当主。
シンドロームは、オルクス/ソラリス/モルフェウス。
家名に泥を塗ったことで、現在は自由と権限を剥奪された上で幽閉されている。
かつて持っていた能力は『言霊使い』、そして『限定的なテレパス念話』。
出産を契機にそれらのほとんどを失っているようだ。
どこか浮世離れした、マイペースでおっとりとした性格。

玉兎(ギョクト)

琴羽の双子の弟であり、名前は琴羽がつけた。
シンドロームは、オルクス以外不明。
双子の共鳴能力がオルクスによって強化されたのか、琴羽とだけはテレパスによる念話ができていた。
その背中には琴羽とは逆の片翼を生じさせることができた。