崩壊する建物を桃色の髪の少女を抱えて進む。着ていたアーマーも大破しもはや役に立たない。後少しで出られそうだがその前に建物が完全に崩落するだろう、ならば残された手段は。
「おい、起きているな。俺が瓦礫を支えて道を確保するからお前はこのまままっすぐ走れ。先に俺の仲間が待っているはずだ。」
少女はためらいをみせる、が一瞥の後走り出した。
「そうだ、それでいい。」
限界を迎えつつある身体で最後の力を振り絞り退路を確保する。やがて少女の後ろ姿が見えなくなると共に建物は完全に崩落し、俺の意識は暗転した。
「まだ……大したことも出来ていないのに…お前の所に行くことになってしまったか……。」


暗転。上下もわからない。宇宙空間に放り出されるとこんなこんな感覚なのだろうか。何も見えず何も聞こえない。これが所謂死というやつかと朧げながらに思案する。
どれほどの時間が経ったか、突然視界に光が溢れた。


眠りから覚めたにしてはあまりにも鮮明すぎる目覚め、さながら機械に電源が入るかのようだ。
「聴覚、視覚機能の接続。起きろマイヤー。くたばるには早いだろうが。」
友人の村田成明の声が響く。どうやら冥府ではないようだ。
「ああ、会話用の端末がまだだったな。少し待っていろ。」
村田はそういって喉周りで何やら機械の取り付けを行い始めた。
どうやらかなりの重傷だったようだ。オーヴァードの再生能力を持ってしても機械化の必要があるとは相当だ、果たしてどこまで身体が残っているのだろうかといくばくか不安になる。
「よし、作業完了だ。マイヤー、ちょっと喋ってみろ。」
『ああ、これでどうだ………いやちょっと待て、なんだこの声は？！」


部屋の中に可愛らしい少女の声が響いた。


『まさか全身機械化、その上脳の電子データ化までされていたとはな。いやこの際それは良い、問題はなんだ、この義体は！！！俺にこのような趣味は無いぞ！！まさかお前の趣味か、付き合い方を見直す必要がありそうだな…。』
少女の声で怒声を上げる自分に激しい違和感を覚えながら友人を睨みつける。
「いや、すまなかったマイヤー。なにぶん貴様が死にかけたと聞いて大至急手はずを整えたからな、調達できた義体がレネゲイドビーイングの意識データを移植用に試作されたその少女型だけだったのだ。そのうち男性型義体を用意してやるから暫く我慢してくれ。」村田は半分笑いながら一応の謝罪を口にし、さらに続ける。
「通常の治療ではどうあがいても手遅れだったからな。イチかバチかで機械化させてもらったが一応貴様を現世に留められたから手術は成功と言えるだろう。まだ細君の所には行けないという貴様のいつかの願いも叶えてやったんだ、それともこのまま寝かせてやった方が良かったか？」

『そうか……一応状況は理解した、感謝するぞ村田。後聞いておきたいのだがこの義体でも任務遂行に支障はないか？』
「少なくとも機械面の義体に関してはそのまま実戦運用すら可能だ。」
『そうか。それなら俺の義体は当分このままでいい。貴様の才能はもっと広く使われるべきだからな。』
「いいのか？生身の人間をデータ化、機械化しただけでも相当な負担だろうにそこからさらに少女になっているんだぞ？」
『かまわん。慣らす。ただ……。』
「ただ、なんだ？」
『声帯だけは換えてくれ。違和感でどうにかなりそうだ。』


かくしてハンス・マイヤーはハンナ・マイヤーとして甦った。

本部エージェントの四峰安次に電子戦の専門家として招集され、他にも招集を受けていた鬼久田ベル、慈場臥藍、牧嶋真姫と共に死亡したエージェントの冬水の謎を追う為に『ゴースト』に配属される。
個性豊かな面々に苦労するも手がかりとなりそうなUSBメモリーを入手。解析に取りかかるもファイルの解凍をトリガーに大規模なレネゲイドパンデミックが発生。自責の念に苛まれながら状況の収拾に当たり犯人の追跡に参加した。
犯人であるFHエージェントととの戦闘では重装PAアーマーを纏い正面を切って殴り合いを演じた。
事件解決後、牧嶋がかつて救った少女だとの確信を得り、珍しく上機嫌で電子の海に帰っていった。