物心ついた時から、僕は存在感が希薄でした。
今思えばレネゲイドの仕業だったんでしょう。何せ、こんなにも見付けづらい僕なのに、あのバス爆発が初めて遭った事故だったんですから。

幼い頃、僕にとって世界は鮮明過ぎて恐ろしいものでした。
今でも鋭敏な五感が受け取る刺激に、嫌悪感を覚える事が少なくありません。
自然と交友関係は薄くなり、一人で手遊びをする事が多かったです。

高校生になって出会った友人が稲継くんです。偶然にも同じ名前だった彼は、万能性を損なわないながら自然な振る舞いで僕の懐に居座りました。
長く付き合っても不快にならない友人は初めてで、僕の方こそ分不相応なんじゃって悩んだ日も少なくありません。

あまりにも自信不足な僕を見かねたのか、あるいは純粋に才を見抜いていたのか。定かではありませんが、稲継くんに薦められて始めた手品は想像以上に僕に馴染みました。
人を観察し、盲点を突き、驚かせる。
そんな手際は、どうしてか綾瀬さんには上手く通用しませんでした。彼女を意識するようになったのはそれがキッカケです。

稲継くんはよく僕に言いました。
「あなたは自分の価値を全く分かっていない」
――その通りでした。
天空を舞う隼と契約しただけでは説明の付かない、僕の持っていた力。
手を伸ばして物を掴めるのと同じくらい当たり前の能力(チカラ)。
それを持つ僕は、生まれながらのオーヴァードでした。