遺産の意志の一部に、謀略を編む人とそれに囚われる人の悲喜交々を｜もっとよく見たい《理解したい》という些細な好奇心が芽生えたことで彼が発生した。そしてたまたま生まれ落ちた直後に出会ったのがFHの人間だった。
　己の欲望のためにあらゆる手練手管を使う人々を面白がって彼らに手を貸し、敵対組織の情報網に混乱を引き起こし、前線では思考回路を破壊する影の力を振り回し、奔放に暴れ回って数々の優秀なUGNエージェントを行動不能にした。UGNは元よりゼノスや天船巴にも目をつけられ、時に結託した彼らに殺されかけたりもしたが、差し向けられた刺客はすべて返り討ちにするなどしてなんとか生き延びてきた。
　まさか自分が謀略に囚われる側になるとは思っていなかったので死ぬほど焦ったけど、駆け引きとか差し合いとかヒリついた感じから「楽しさ」「逆境を乗り越える悦び」を理解したのでよしとしている。

　起源が「遺産の意志」であるからして個体名を持たず、特にこだわりもない。現在の名前はFH所属当初に便宜的に与えられたものをそのまま名乗っている。
　影：まあウロボロスですし……
　囲：鉄格子
　リオ：←オリ（檻）
　コードネームの「Bad Jailer」とは、牢獄に囚われた囚人への応対を行う者とはすなわち獄卒であるが、牢獄（謀略）からの脱出と復讐を唆すため、「獄卒」としての責務は果たせてないよね、という意味。

　影の檻に捕らえると共に対象の神経系統に影を侵入させ、対象が最も絶望的だと思うイメージを脳裏に焼き付ける。「裏切り」「喪失」「失態」など、与えられるイメージは対象によって異なるが、共通して「対象が知る人物が実現しうる出来事である」という暗示が含まれる。

　彼曰く、「謀略の牢獄」は「理外のまなざし」と人間の中継地点であり、牢獄の夢を見た人間は「まなざし」に選ばれた存在なのだという。「まなざし」は常に、悪しきものの底で足掻く人間達のドラマに飢えている。牢獄には常に絶望の叫びと希望への祈りが響いていなければならない。
　つまり、牢獄に取り憑かれた人間は囚われることで正気を失うが、牢獄より顕現した彼は常に何人かが牢獄と契約していなければ存在を保てない。今も時折夢を通じてどこかのオーヴァードに接触している。必要最低限の人数は不明。また、彼自身が貶めた人間はそもそも夢を介した干渉ができないため契約させられない。
　――ただし、彼が語る牢獄の姿でさえも彼自身を囚える謀略の一端である可能性が否めず、「真実」はきっとここで語ることはできない。

「グレイプニルシンドロームを発現しながら理性を保つオーヴァード」
「おれはね、これはシャルヴが作り出したものなんじゃないかと思っているんだ」
「いやなに、ただの思いつきさ。あの研究熱心な宇宙人共ならそういう手管のひとつでもあるんじゃないかと思ってね」
「ヤツら、人手の確保に随分と躍起になってるみたいじゃないか。あちこちでしょっちゅうゼノスと小競り合いをやってるけど、原因のほとんどは単なるレネゲイドビーイングの取り合いらしいね」
「そんな中で、少しでも自分達に有利な状況を作ろうと画策した結果、おれ達のような“仲間はずれ”が出来上がったとしたら？」
「きみとマコトがアーネストを立ち上げていなければ、いったい何人がヤツらに“保護を求めていた”か分からないよねぇ……」
「なーんてね。ホントにただの思いつきだよ。妄想もいいところさ」
「けど、これが本当だったらやり易いってモンじゃあないよね。的は叩き易いに越したことはない。ここにいるおれ達みたいにさ――あはは、冗談冗談」

「誰しも絶望を知って初めて希望を目指す――かく言うおれも、今それなりに絶望を味わっててね。きみの懐の広さには結構感謝しているんだよ？」
「共に乗り越えよう。せめて事の真相が分かるまでは死なないでくれよ。おれも協力するからさ」