一族のルーツは欧米だが、魔女狩りから逃れるために逃亡を続けた末に日本に移り住んだという。
その過程でかつての秘儀はとっくに失われていたが、それでも過ぎ去った栄光に縋るために血と腐臭にまみれた陰惨な因習に耽っていた。
そんな忌まわしい一族の末代こそが彼女である。

もはや形骸化した儀式めいた何事かを繰り返す家族を差し置いて、移植を繰り返すうちにとっくに変質してしまったセラエノ断章に触れた彼女は、一族の中でただ一人宇宙の真理に触れてしまう。
もはや――否、元より神は人間を愛していないという真実。一族が繰り返してきた儘事は何も得ることはないという真実。
そして、倉庫の隅で埃を被っているあの黒き石造りの剣こそが忌むべき一族より唯一引き継ぐべき"遺産"だという事実。

かくして彼女は"遺産"――『常闇の剣』を持ち出し、生涯を過ごしてきた屋敷に火を放ち出奔した。
一族の生き残りが差し向けてきた追手は、剣が命じるままに殺害。
そして落ち目のUGNに転がり込み、身の安全の保障と引き換えに、この街に巣食う穢れた者どもを殺す契約を交わしたのだった。
こうしたルーツを知る者は、彼女をかつてのコードネーム"｜魔女狩り《ウィッチハントレス》"と呼ぶ。

セラエノ断章がもたらした冒涜的な真理は彼女の心を酷く蝕んだ。
愛してくれぬ神々に必死に縋る一族のなんと醜いことか。この世に息づく神話生物共のなんと醜いことか。そして身儘な神のなんと醜いことか！
すなわち彼女は世界の裏側を【嫌悪】しているのだ。
だから、この真実に唯一気付いた自分が救済せねばならない。世人を守るためにおぞましく穢れた者どもを殺さねばならない。
すなわち【救済】のために、彼女自身も穢れた者の仲間となることを選んだのだ。
しかし、これらの感情はまさしく【呪物】――常闇の剣に汚染された結果でもある。彼女は剣を手放せず、剣に斬れぬものがあってはならないと考えている。だから実験を繰り返すのだ、斬りえぬ物を斬り落とせるまで。