某所にあるUGN施設、厳重な警備の敷かれたその一角をミツバは鼻歌を歌いながら歩いていた。
「新型ドローンちゃんの受け取り完了！早く飛ばしたいな～！せっかくここまで来たことだしマイヤーさんのところにも顔出しておこうかな？」
とある一室の前に立ち電子ロックに手をかざす。
〈認証確認。エージェント　陸角ミツバ〉そう表記されると扉が開いた。

大量のモニターやコンソール、サーバーが機械音を奏でている薄暗い室内の中央にはその場に似つかわしくない少女が虚ろな瞳を浮かべながら座っていた。
「マイヤーさーん、ミツバですよー……、これ仕事中な感じ？」
ミツバが少女に声をかけるが少女からの返事はこない、が。
『陸角か。わざわざここまでくるとは何の用だ。』
そう男性の声が響くと同時にモニターの一つに座っている少女と同じ顔が移る。
ハンナ・マイヤー。ミツバと同じ“アデプタス”の一員であり少女の義体に成人男性の精神を移し、電脳空間での行動を可能にしたオーヴァードの中でも特異な存在だ。

「何の用という訳でもないんですけどせっかくここまできたし顔合わせておこうかなーって思いまして～。」
『ならさっさと帰って情報収集を継続しろ。』
「わー酷い！！ただでさえ“アデプタス”はリアルでの面識ある人の方が少ないんですよ？もうちょい仲良くしよーとか思いません？」
『思わん。』
「ぎゃーザックリ！！」
『そもそも俺たちの主戦場はサイバー空間だ。リアルでの面識がそこまで重要か？』
「うわーんアタシの上司に人の心がなーい！！」
『いや人の心は残っている…はずだぞ。身体は無いが。』
そういうことじゃなーいと駄々をこねるミツバを見て画面内で大きくため息をついたハンナはモニターの電源を落とす、と同時に座っていた少女の瞳に光が戻り動き始める。
「これで満足か。満足したなら帰れ。」
「そうそうそれですよマイヤーさん！せっかく可愛い見た目してるんですしもっとみんなとの交流もちましょうよ！」

ハンナが呆れ果てた表情を浮かべ無理矢理追い出そうと思い始めたその時、モニターにメッセージが表示される。
「なんだ？……FHのアジトと思わしき施設を確認、サイバー攻撃の後部隊を突入させる…か。ちょうどいい。陸角、お前も手伝え。ドローンによる偵察と情報の伝達は任せるぞ。」
「オッケーですマイヤーさん！こっちのコンソール借りますね！」
「ああ、他の連中も叩き起こしておけ。」そう言うと椅子に座ったハンナの瞳から光が消え、同時にモニター上にハンナが現れる。

『“アデプタス”。作戦開始だ。セキュリティをぶち抜いてやれ。』
「了解！」