ごく普通の家庭に生まれ育った。黒髪黒目の、どこにでもいるような普通の少年だった。家族にも恵まれ、幸せに過ごしていた。大人になってから結婚し、子供も出来た。それからも変わらぬ順風満帆な人生を送る……筈だった。

彼が29歳の時。子供は3歳、妻は27歳。そして両親。家族みんなで出かけていた時の事だった。FHのジャーム、サラマンダーシンドロームを操る者が突如として現れ、辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
人が燃える臭い。傷ついた人々の泣き叫ぶ声。物言わぬ死体に成り果てたひと。パニックになりながらも、彼もどうにかして家族と共に逃げようとしたのだが──ジャームの放った炎に巻き込まれ、意識をほんの少しの間飛ばしてしまう。
目を覚ました時に見たのは、変わり果てた自分の家族。黒焦げになり、誰かも判別が効かない。唯一手を引いていた妻の片手だけが、燃えずに残っていた。その指にあった指輪は炭化し、結婚式の日にたてた誓いもなくなってしまったように感じられた。

彼は、絶望した。そして、それを凌駕するほどの怒りに包まれた。限界を超えた怒りによって、その意志がより強大な炎となって宿った。愛しい家族を皆殺しにしたジャームを同じ目に、いや、それ以上に残酷に。彼は暴力の限り、憤怒という名の炎が続く限り、殺し続けた。

……天涯孤独となった彼は、以前のキャリアを全て捨て去り、ジャーム専門の殺し屋として生きるようになった。悪魔の名をその身に背負い、無辜の民の幸せを奪わんとする者共を殺し尽くす為に。

無愛想でつっけんどんだが、人を思いやる心が無くなった訳では無い。親しい者をまた失うことに、彼は怯えているのだ。本当は情に厚く、穏やかで優しい性格をしている。

「……何だ、お前か。俺に何か用か？」
「依頼か。分かった、引き受けよう。……奴等は、俺が殺してやる」
「もう、誰かを愛することなど出来やしない。そうするには、俺は汚れ過ぎた」
「お前のせいで、何人の人が死んだと思っている！！　──殺す、お前は殺す！！」

5i アスモデウスのアクゼリュス（Akzeriyyuth、残酷）