○ヘンリー・ルイス(名前の意味：支配するもの)
オードリーの養父であり、恩人である男。実直な男で偽りが苦手。表情はあまり動かない鉄面皮だが、意外と感情自体は豊か。
国や人を護る意志を持つ、熱い男。だが、理想だけではうまくいかないことを理解もしていて、その狭間でいつも苦悩している。
オードリーに幸せになって欲しいと思っている。同時に、才能に気が付いてしまった自分に苦いものを感じている。

「なんでお前みたいなのが生きてるのよ…さっさと死ねばいいのに」
「可哀そうだけど…ちょっとあの子、気味が悪いわよね」
「…なんで分かるんだよ…！くんな、バケモノ！」

生まれた時から疎まれていた。その言葉全てが真実だと分かっていた。

「うんうん、信じるよ～後は任せてよ、ね？」「…あー、疲れた。あの年の子は気を引こうと変な話ばっかりするよね、ホント」
「君は悪くなんてないよ。それは辛かったね…！」「あぁいう子供ならちょっと優しくしてやればコロッと懐くだろ。…あの力を使えば俺は…」

周りは色んな嘘にまみれていた。その嘘を見抜くたびに、私は一人になった。

真実も嘘もうんざりだ。人は己のことしか考えないし、そのために容易く人をだましたりする。だから、人の近くに行くことは危険だった。…でも、そうやって距離を取るのは、寂しかった。

「俺は、お前をここから連れ出したい。助けたいと考えている。…だが、これは善意だけじゃない。打算がある」
「これは国の未来のための投資でもある。お前には素質がある。国を守る者になるための素質が。そして、そのために戦うための力がある」
「…もし俺のところに来れば、将来国のために働くことになるだろう。それは危険にも晒されるようなもので、幸せとは離れた場所だろう」
「だが、その力の使い方も教えられる。将来は確定はするかもしれんが、それ以外なら融通も多少は利かせよう。衣食住もきっちり用意する」
「…あぁ、そうだ。俺は今お前をスカウトしようとしている。お前を欲している。…口説き方は悪いだろうがな。生活を盾にしている上、打算まみれで姑息…そんな悪魔のようなやり方で。」
「お前がこの話を断るというならいい施設を紹介しよう。…それでも、あえて聞かせてくれ」
「――お前は、この手を取るか？」

余りに真っすぐだった。取り繕うこともなく、ひたむきな言葉だった。そして、ずっと一人だった私を、欲してくれる言葉だった。

きっと険しい道になる。平穏や幸せを考えるなら、断るべきだ。そして断っても、彼はいい施設を紹介するという言葉を違えることはないと確信していた。

――だからこそ、この人の役に立ちたいと思った。

差し出された手をがっしりと握り、頷く。あっけにとられる目の前の男に言う。

「…私に、名前をつけて。今日までの私は、ここで死ぬから」
「いいよ、その打算に乗る。国のために働いてあげる。…だから、あなたの手を取らせて」

私が本当に欲しかったものを、生きる意味を手に入れた。新しい私の命が、始まった。