この報告書は"人型 写"に｜異端なる撮影家《マッドネス・シャッター》というコードネームが与えられた経緯を書いたものである。
日本支部以外への持ち出しは厳禁とする。写しには日本市部長の認証が必須。


１．経緯
＿＿2022-04-08
UGNエージェントが突如として発生したレネゲイドの出所を探ったところ、UGN管轄外のレネゲイド研究所が発見された。FHによる研究所かとも思われたが、調査の結果としては不明とされている。
その際、研究所内を調べていたエージェントにより、昏睡状態のオーヴァードを発見。残されていた資料によれば、オーヴァードとして覚醒したようだ。被験者の名前は「｜人型《ひとがた》 ｜写《うつし》」。合意の上でレネゲイドの研究に加担していたため、要注意人物として保護することに決定。


２．経過観察
＿＿2022-04-20
保護対象は一週間後に意識を回復させ、対話が可能となった。数日後、分析が得意なエージェント同伴のカウンセリングが行われた。以下はその対話内容である。

Q.調子はどうか
「調子なら万全です。あなた達がゆっくり休ませてくれたおかげです」

Q.事前に渡した説明書の内容は把握したか
「ああ、あなた達がUGNだと呼ばれる組織だということも。その構成員だということも。私がオーヴァードという存在になったことも把握させてもらいました」

Q.どうして非合法の実験に協力したのか
「人間をよりよく知るためですよ。レネゲイドというものは素晴らしいですね。人の潜在能力、いやそれ以上の能力を引き出すことができる。それも扱える能力の種類が個体によって違うときた。非常に興味深いウイルスですよ。ああいや、人間ほどではないのだけれども。でも人間でありながらも、超常的な力を操ることができるこの力は」
(省略)
「話が長くなったけれど、私が実験に合意したのはただ一つの目的のためです。人間という生き物を研究し尽くすこと。私の生きる理由であり、定められた｜宿命《やくめ》なのです」

Q.これからUGNの監視の下、生活してもらうが構わないか
「もちろん構いません。好きに監視してくれて構いませんよ。私はむしろこのレネゲイドに関してならば、あなた達の研究を手伝うことも考えていますが……それは許可してはもらえませんか？」

Q.エージェントとしても働いてもらうことになると思うが構わないか
「ああ、ああ、もちろんですとも。私にとって働くというのは何よりも、いや……人間観察の次に有意義なことですから。私が手伝えることであれば、何でも手を貸しましょう。ところで私は監視対象な訳ですから、研究するときは同伴者が必要だと思うのですが、私個人の研究室は用意してくれたりしますか？」

Q.……検討しておこう
「ありがとうございます。それじゃあ、これからよろしく頼みましたよUGN。私の研究のために利用され、君たちの目的のために私を利用してください」


３．発生事案
＿＿2022-08-11
ソラリスのシンドロームを持つオーヴァードの研究員を同伴者に、保護対象の望む研究をさせていたところ、被験体のマウスの一匹が突如として覚醒し、ハヌマーンのエフェクトを行使し、研究室の破壊及び脱走事案が発生した。
同伴者が少し目を離している内に、保護対象がソラリスのエフェクトを許可なく行使したのが原因。

脱走した被験体マウス(後述、｜風鼠《ウィンド・マウス》)は保護し、現在は保護対象の特殊実験体として飼いならされている様子。
オーヴァードとして覚醒した結果、意思疎通が取れるようになったため、殺処分せずに済んでいる。
だが、実験には非協力的なため、保護対象が無理矢理に風鼠を実験させないよう要監視。

……胃が痛い限りだ。研究室の壁一面に貼られた人物写真は盗撮ではないとはいえ、とても気味が悪い。
保護対象は以降、"｜異端なる撮影家《マッドネス・シャッター》"と呼称することとしよう。これ以上の問題を起こさないといいのだが…………。