池田輝政…またの名を照政。兄弟の多い彼であったが、彼には本来もう一人兄がいた。
その名は…“池田照信(いけだてるのぶ)”。そう名付けられる予定だった。
だがしかし、彼がこの世に産まれることはなかった。様々な要因が絡んだ結果、この世に人間として生まれることは叶わなかった。
だが、彼の魂はたしかにこの世に生まれていた。本来、肉体を無くした魂というものは天へと昇っていく…もしくは、いわゆる幽霊や亡霊として不完全なもののまま現世に残ってしまうはず。

――――しかし、彼の魂は不完全であった。

彼の魂は欠けていた。半分は霊と化し、半分は天へと昇っていった。そしてその欠けた魂を…今では“古代種”と呼ばれるレネゲイドウィルスが埋めていたのであった。
その埋められたウィルス…過去で言う妖気によって彼はレネゲイドビーイングとして覚醒していた。そしてその後、彼の持つ揚羽の血筋の魂と、彼が持つ“古代種”としての力に尾張国に住み着いていた多くの亡霊の怨念が引きつけられていき、人に近しい姿…それが今の揚羽ノ紋なのであるが…を得た。

その後の彼はキャラシの通り、池田輝政について行っていたという。彼の者の兄としての心配と、レネゲイドの力から弟を守るために。そして何より、弟を見守ることが面白そうであったから。

そうして池田輝政を見守りながらついて行っていたある日、彼は刑部姫という姫路城に住み着いていたレネゲイドビーイングに出会う。
年に一度だけ姫路城主の前に現れ、城の運命を告げるという彼女。では、それ以外の350日ほどは何をしていたのか。
―――おおかたは、あるレネゲイドビーイング(“揚羽ノ紋”池田照信)に城の中で暇つぶしの相手をさせていたらしい。

そうして数十年。ついに輝政に死期が訪れる。
そこからさらに百年近く経ち、照信の魂にも死期が訪れたのであった。彼は所詮不完全な人間の魂。古代種の力があるとはいえ不完全なままで生きていくことには限界があったようだ。

そこで彼は、レネゲイドビーイングとして自身の人格だけを残していったのであった。そして、彼の魂は、池田照信は死んだ。残されたのは膨大な力を得た亡霊の集合体とそれに宿る人格のみ。それが現在の“揚羽ノ紋”である。彼は、否、彼らは池田照信の魂が死した時点で名を捨てた。
そして、便宜上“揚羽ノ紋”とだけ名乗り始めたのであった。死した魂と、彼が最期まで見届けた弟のことを忘れぬために。

ちなみに、それ以来も何だかんだ刑部姫やお菊さんとも付き合いはあるようだ。お菊さんはさておき、刑部姫からは時々呼び出しを受ける。

なお、この設定には史実とは異なる点もあるかとは思うが、そのことについては目をつぶっておいていただきたい。

「……久しぶりですね。“怒り”という感情をここまで思い出したのは。」

「私の魂が…いや、私の中の“魂”が、全てを思い出した頃からやけに騒がしいのです。『死者を冒涜するあの行いを許してはならない』と。」

「実際、私自身も許してはならぬと思うのです。UGNという居場所のある1体の、そこにいる…グリィズルと同じ、レネゲイドビーイング(化け物)として。そして……“炯眼の魔女”片桐麻友咲。彼女の隣に立つ者として。…あの計画しかり、この計画しかり、彼女を冒涜する貴方がたを許せないのです。」

「だから…ここで終わらせましょう。

“形をなす影よ、この紋に集いし怨嗟の声よ。そのすべてを持って、すべてを喰らえ。牙となりて、敵を討て。彼の者は我が敵。そして……我が友、片桐麻友咲の敵なり。”

―――――〈秘術:墨染影牙〉。」

「朧影が弓影となりて、黒影の矢が閃影を穿つが如く、我が影牙よ、この孤影の御影を以てかの者の影を喰らえ。後に残るは我が静影のみ。影を喰らう我が力を以てして…我が敵を、我らが御影を侮辱するあの者を喰らい尽くせ。

――――――〈秘術:墨染影牙〉。」

2回目以降の詠唱と演出に関しては事前の仕込みはないも同然です、これしか仕組んでない……

他者の戦法を模倣するなど、本来ならば既に相まみえたものをもう一度他者に見せることになるが故に、戦にはいささか不向きではあります。
しかし……本来、"模倣することが想定されていない者"にとっては、1つの切り札となり得る。ましてや、3つも模倣を重ねるならば、それはただの真似ではなく、藍本（らんぽん）となるということがおわかりいただけたなら何よりです。

極寒の気を纏い、弓影より放たれる疾風の弾丸となれ。冥き（くらき）沼より出づる牙と共に、彼の者を討て。
……このようなくだらぬ児戯は、ここで終わりにしましょう。

〈秘術:墨染影牙〉
（こっちは２回目）

幽闇（ゆうあん）たる影よ。その全身全霊、全てを持って、全てを喰らえ。閃影の如く迅疾な黒影の牙となりて、敵を討て。

〈秘術:墨染影牙〉
（こっちは１回目）

まだ倒れぬというのなら、こちらもさらなる切り札を切るまでのことです。
――――〈奇術：夢幻泡影(むげんほうよう)・裏(り)〉

夢幻泡影
人生や世の中の物事は実体がなく、非常にはかないことのたとえ。
術式に「裏」ってつけるのは、実体のない力をもう一度蘇らせるというところからのニュアンス抽出。儚く消えるものをもう一度出してくるイメージ。