いつも通りの生活。いつも通りの日常。なんの不満もない、なんの不安もないあたたかな平穏。
そんな平和で幸せの中、仲のいい両親につれられて遠出をしたある日。暴走車との正面衝突、大きな事故に見舞われる。
炎の熱さと深々と突き刺さった硝子や鉄片の痛みの中、完全にこと切れる寸前。少女の身体は生に執着した。

ただひとり、「人から外れたもの」へと成った。

訳の分からないまま運び込まれたのがUGNの管轄の病院だったらしく、覚醒したてで不安定な肉体、それでも生きたいと叫ぶ少女に応えるように、両親の最優先の治療を対価に「第二の心臓」を提供される。
それは、ブラックドッグの力を以て動くもの。それは、さらに「人から外れたもの」へと近づくもの。
与えられた心臓は、今日も動き続けている。

故に、少女の心臓は「｜鋼《きかい》」なのである。

そんなことがあってか、少女は人一番自信をつけるようになった。誰にも負けないようにと密かな努力を欠かさないようになった。
今はまだ眠ったままの両親のために戦い続ける。目が覚めたとき、笑顔で「おはよう」と言えるように。
いちばんになる。つよくなる。それが少女の目標である。邪魔をする者には容赦をしない。

少女にとって、同じクラス、同じ支部の響谷忍はひとつ抜けた存在である。所謂同僚、という立場ではあるものの、真面目で言葉を尽くすさまには一目置いている。
長く生きていたいと思うものの、所詮は実験台、使い棄てられる可能性もある中少しずつ削れていく人としての自尊や倫理観を繋ぎ止められているのは彼のおかげでもある。
良き同僚で、削りあう戦友で、微かに芽生えつつある淡い感情。
それが今は何かよく理解していない。ただ「彼には可愛いと思われたい」という気持ちが薄らとある。