なぜ天涯孤独なのか、なぜ彼は鮮真錬血に拾われることになったのか、彼はどこから来たのか――――

AtoZProject、それが彼の生まれの大本となった実験だ。UGNで行われていた実験で、より優れたオーヴァードを作り上げるために必要な要素は遺伝子にあるのではないかという仮説を元に優劣やシンドロームなど、様々な遺伝子を組み合わせて強力な力を持ったオーヴァードを作り上げることを目的としたプロジェクトだ。デザインベビーや複製体などが当たり前のようにあるダブルクロスの世界であろうとも、その実験が倫理観の欠如した、生命の冒涜にも等しいものであるのは変わりはない。
そのプロジェクトはアルファベットと数字で型番を作ることが決まりとなっており、鮮真翔一はS-1の型番の実験体としてこの世に産み落とされた。
このプロジェクトでは作られた子供たちがオーヴァードに覚醒する、あるいは覚醒していることが必要な条件となるのだが、彼は生まれてから覚醒することはなかった。覚醒した子供たちへの待遇は良いものの、覚醒しなければ廃棄される…こんな世界で彼は廃棄寸前になったものの、運よく研究の行われていた施設から脱走、なにも知らない鮮真錬血に拾われることとなる。彼がいなくなったことがこのプロジェクトの終焉にもつながることになるのだが……彼がこれを知るよしもない。

チルドレンとしての訓練期間での成績はまずます、優秀とは言えないものの、秘める潜在性には目をつけられていた。当時チルドレンたちの中で優等生だった者をたった一度だけでも打ち負かすなど、底知れぬものを持っていたのは確かだったようだ。誰の遺伝子が彼を強くしたのか……まったく分からないものだ。

鮮真翔一は他者に価値を見出す。これは鮮真翔一が自身の出生を知った後の話になるのだが、鮮真翔一は他者に価値を見出すようになったのだ。人間であるなら当たり前のことかもしれないが、鮮真のそれは少しばかし他者とは違った。他者のどんなに小さい善性であってもそれをその人の価値と肯定する。その人を守るためにと…そんな歪なあり方をしている。
この価値を見出すあり方の根幹にあるのはその生まれ、周囲の仲間は全員当たり前の生まれ方をしたのに対して鮮真は自分がそうではない、カプセルの中で生まれたことが知らずのうちコンプレックスとなっている。
”俺みたいなやつよりみんなの方が生きる価値がある。”
そうして全てがその考えに集約し、他者に価値を見出すようになった。自己憐憫とはまた違う、自己犠牲の為の言い訳。鮮真は意識的にこれに気付いてはいないが行動には現れている。真っ先に敵陣に切り込む命知らずの戦い方がそうだ。シンドロームの力を活かしているとも取れるが、自分の命を投げ捨てるような戦い方とも言える。
何時死んでもいい。自分が死んで価値ある他者が守れるのなら。それが彼の根幹にある。
また、彼の兄弟とも言えるAtoZの実験体の仲間たちも同じような生まれをしていながら、彼はその仲間たちにも価値を見出す。生まれは同じなのに、自身に価値を見出そうとしない。それが鮮真翔一なのかもしれない。