物心ついた時から、強い霊感があった。
　よく視える人間というのは、気付いてしまうからこそ、霊に魅入られやすい──人智を越える超自然科学に理解があった両親によって、自衛の力をつける為に田舎の寺へと預けられた過去を持つ。
　幼少期はそうして、力との付き合い方に費やした。結果、誰よりも害意に敏感になり、「自分に害意を向ける奴は全部敵」と考えるようになった。
　己の身を脅かす何かは、撃退しなくてはいけない。ならば対処は簡単、降りかかる火の粉は全て祓っていけばいい。その為の鍛錬だろう？
　生来の血の気の多さは、彼を生者死者問わず喧嘩を買う問題児へと育てた。

　田舎という社会故に高校に進学してもその素行は変わることはなかった。
　寧ろ、「害意を払う」という為だけだった行為は単純なストレス発散と化し、無駄に頭が回るようになった故に悪化した。
　これはあくまでも正当防衛。後ろ盾に咎められないように巧妙に、ずる賢く、ムカつく奴ら全部全部ぶん殴って、スカッとしようぜ。
　同年代も大人も、そんな彼と関わることを避けていた──ある教師を除いて。

　とどのつまり、彼は孤独だったのだ。
　配慮の結果親と引き離され、他人のテリトリーで育ち、教わったのは霊との向き合い方。
　寛容だが距離のある大人としか接せず、寺に住むという同年代からは浮いた境遇、そして霊と話せる異物故に──周囲からは当然、気味悪がられていた。
　そんな少年が、ようやく自分を「変わった人間」ではなく、普通の高校生のひとりとして見てくれる｜教師《おとな》と出会った。
　彼に会いに国語準備室に通っているうちに、友達ができた。彼らも自分と同じように周囲から異物として扱われている、けれども普通の少年少女だった。
　彼らと過ごした青春は、きっと周りから見たら普通ではなかったのだろうと思う。｜都市伝説《おもしろいもの》を追いかけて、黒魔術に本気になり、心霊現象相手にしこたま遊んだ。
　けれど初めて他人を思い遣り、初めて他人を大切だと思う気持ちを学んだあの頃は、確かに人生の春だった。
　ついぞ──先生の出す国語のテストで満点を取ることはできなかったが、彼らと共に過ごした国語準備室は、何年経とうと、思い出の場所だ。

・ファブリーズと御守り
　霊感ゼロでも使えるお手軽対策アイテム。
　前者は一時期な撃退にしかならず、後者は取り憑きを防ぐだけなので一長一短。
・「イヅナちゃん」
　ネックレスに封じられた｜元動物霊《ジャーム》。一般的に管狐と呼ばれる存在。偵察や諜報能力に長けており、志門の影から分離して、任意の動物の姿を取れる。
・「ドッペルくん」
　腕輪に封じられた｜元低級霊《ジャーム》。もうひとりの自分が作れる。チルドレン達とのトレーニングに有効活用される。
・「ミナザキさん」
　指輪に封じられた｜元低級霊《ジャーム》。人の手の影が重なって蛇のような姿を取る。
　午前二時、立ち入ったら最後、水の中に引きずり込まれると噂される沼の霊。かつて己の赤子と心中せざるを得なかった女幽霊の残滓。
　あの世で我が子が寂しくないように通りががった魂を引きずり込もうとする。
　貪食の権化たるウロボロス性と相性が良く、破壊力に際限がないため、志門の主戦力にして切り札。反面、酷使すれば、使役者ごと取り殺してしまいかねない代物でもある。