幼い頃に両親を事故で亡くしており、施設で育った。
両親のことはぼんやりとしか覚えていないが、自分は二人が好きで、二人も自分を大切にしてくれていた気がする。
施設はいいところだったが、"家族を失った"という感覚がずっとあったため家庭に強い憧れを抱いていた。

奥さんとは高校で出会い、同じ図書委員をしていた。大人しくとても真面目ないい子だという印象を持っていたところ、2年に上がる頃に彼女から告白され、断るのも悪いな…という思いで交際をスタート。
最初はそのくらいの感情だったが、共に過ごすうちに意外と芯のある性格であることを知り、また花が咲くように笑うところがかわいいと思うようになっていく。大学に上がる頃には自分も彼女に恋心を抱いていた。
大学卒業後に結婚し、2年後には娘も生まれた。
幸せだった。好きな人と生涯を誓い合って、愛おしい娘に出会って、念願の家庭を持てたことが。

バスジャック事件で妻子を亡くしてから、何をするにも消極的になってしまった。
今でもあの頃の家にひとりで住んでいる。

事件は、娘の5歳の誕生日のお祝いで遠出をしていた時に起こった。
自分がバス停までの道を間違えてしまって、予定よりバスの時間を遅らせたことをはっきりと覚えている。
覚えている。覚えている。間違えさえしなければ、きちんと確認したのに、けれどもっと、もっとしっかり。ああ娘は疲れたと言ってぐずってしまって、ほんとうは夜まで内緒にしているはずだったプレゼントの話をして、笑ってもらおうとしたんだっけ。娘はそれでも機嫌が治らなくて、結局妻が、春子が、蕾の好きなアニメを携帯で見せて、それでやっと笑ってくれて。ダメなパパだなって苦笑する自分を、春子はそんなことないよって言ってまた花が咲くように笑ってくれたんだ。

大きな音。それが銃声だと遅れて理解した。なんと言っていたかなんてほとんど覚えていない。ただずっと怒鳴っていて、少なくとも行きたかったテーマパークとは違う場所の名前を叫んでいた。揺れるバス。鳴り響くクラクション。誰かのすすり泣く声。それが蕾のものだと気づいて、ダメだよ静かにねってあやしても、俺はダメなパパだから、だから。
泣き出した娘に犯人は激怒して、ただ娘を抱きしめながら謝ることしかできなかった。繋いだ春子の手は震えていて、それを止めてあげたくて強く握ろうとした途端、どうしてかその手が離れた。
また、銃声が聴こえた。倒れ込んだ春子を見て、バスが走っているのに立ち上がったら危ないだろって言おうとした。理解ができなかった。どうして春子の白いブラウスが赤く染まっていて、こんなにも喉が渇いて、蕾が泣いていて、怒鳴り声がうるさくて。春子が、春子が。目が合っているのに、笑わないのか。
上がる悲鳴。パニックになる車内を、どこか他人事のように眺めていた。
犯人も乗客ももみくちゃになって、運転手がなにかを叫んで、ふと視線を移した窓の外がいつのまにか山道になっていて。その景色が大きく傾いたと同時に、大きな衝撃。身体が宙に浮いて、腕の中の蕾はずっと泣いていて、春子が通路に投げ出されたのを引き寄せたくて伸ばした腕は、ちっとも届かなくて涙が出そうになった。

窓から、今度は空が見えた。
天気がいいから、きっと混んでいるだろうな。迷って少し遅れちゃったから、まずは昼食にしようか。蕾の好きなキャラクターと写真を撮って、観覧車にも乗ろう。春子が言ってたショーは何時からだっけ。夜は園内のレストランを予約してあるし、蕾の好きなケーキもちゃんと頼んであるから。そのあとはホテルへ移動しよう。実はもうプレゼントのぬいぐるみは部屋のベッドに用意してもらってるんだ。蕾きっと喜ぶよ。景色がいいらしいから春子も気にいると思う。蕾が寝たらルームサービスを頼んで晩酌しちゃおうか。朝になったらカフェでモーニングを食べて、ゆっくり観光して帰ろう。俺行きたいところあるんだ。夕方までには帰らないと。その頃には蕾は疲れて寝ちゃってるかな。
大丈夫。もう迷わないから。今度こそちゃんと、ダメじゃないパパでいるから。

あなたが行うバックトラックのダイスの数に+3個する。つまり、あなたはバックトラックで[通常のロイスの個数+3]のダイスを振れることになる。ただし、Dロイスである生還者は「通常のロイス」として扱わないことに注意せよ。
たとえば、あなたのロイス枠が、「Dロイス:生還者」を含めて7つすべて埋まっている場合、バックトラックには「通常のロイス6個+Dロイス:生還者の効果による3個」で9個のダイスを振ることができる。また、「バックトラックのダイスを増加」した場合、「ロイス6個×2+生還者の効果による3個」で15個となるのだ。
このDロイスは、他のDロイスと同時に取得できない(もちろん、「Dロイス:生還者」を複数取得もできない)。また、このDロイスを取得した場合、あなたはタイタスの効果で「判定時のダイスを+10個する」を選択できない。