営業職の父と専業主婦の母から生まれたごく普通の男性。
　ヴィランズイヤー・レネゲイドウォー初期には学生であり、運良く家族全員生き残る。その際の混乱や被害を見て、人の役に立ちたいと消防士になる。全力で鍛えた名残が腹筋や筋肉に残っている。
　消防士として忙しいながらも充実した日々を過ごしていたある休日の夜中、ヴィランに襲われてしまう。抵抗するも筋肉があるとはいえオーヴァード相手にはどうしようもなく追い詰められた所に現れたユピテルに助けられた。その際にオーヴァードに覚醒。どんなエフェクトが使えるか検査した結果、ガード系のエフェクトばかりでヴィランを倒す術がほぼ無いとわかり、認定オーヴァードではなく登録オーヴァードになった。
　そしてユピテルのその格好良さに憧れ、快活な青年から一転オネェさんに。そして幼い頃の夢だったcafe＆barエウレカを開く。
　そして店も軌道に乗った一年後、偶然抽選で山奥の博物館への入場券が当たり、向かって観光してた時にヴィランが暴れだす。
　居合わせたヒーローが応戦するも、実戦経験の少ないルーキー故に苦戦。応援を呼ぶも周囲でもヴィランが暴れて妨害しており中々来れない状況。オーヴァードである事、元消防士としての経験もあったので避難誘導をしていたその時、一番後ろを走っていた少女が転んでしまう。それを狙ってヴィランが炎の弾丸を放ち、気がついたヒーローが咄嗟に少女を庇うために前に立った。
　…以前から雅蘭は思っていたことがあった
「ヒーローは人々を守るのに、何故人々はヒーローを守ろうとしないのだろう」
「戦う度に傷付き、それでも守る為立ち上がるヒーローは、誰が守るのだろう」
　そして今眼前で、若いルーキーが少女を守る為にその身を盾にしようとしている
ただオーヴァードでヒーローであるだけの、自分より若い、“守られるべき者”が。
　「守らなきゃ」そう無意識に口に出した次の瞬間、気がつけば二人の前に立ち、碌に使って来なかったエフェクトを使っていた。レネゲイドを喰らう影がゆらめく氷の盾と、威力を殺す氷雪の風を。普段使わない事と、咄嗟の行動だったのもあり防ぎ切れず肌が焼けるも、血の沸き立つ感覚と共に大半が癒える。
　消防士だった頃ですら感じたことの無い痛み。体内のレネゲイドが活性し、熱を帯び血の気が引く様な感覚。
　痛いのは嫌いだ、怖いのは嫌だ。けれどそれで誰かが苦しむのはもっと嫌だ。だから…
　いつの間にか噛み締めて切っていた唇を指で拭う。ルージュで彩られた唇に笑みを浮かべ、ルーキーに向き直る。
「全力でヴィランと戦いなさい。安心して、あたしが全部守るから。」
　…だから、自分が守るしかないだろう？
　結果、博物館でのヴィラン暴走事件は人的被害0、物的被害少で幕を下ろす。だが状況が状況とはいえ、認定無くエフェクトを使ったという事で事情聴取と検査を受ける事になり、近くのUGNの施設へ連れて行かれる。
　その際、霧谷雄吾と出会いUGNへ入らないかと勧められる。
決して派手では無く、ヴィランを倒せる物では無い。世間的なヒーローらしくないその力こそ、ヒーローとして必要なのだと。
　そして認定試験を受け合格、UGNエージェントのヒーローとして他のヒーローと共に活動するようになる。
　それは守る為。美しい世界を。花やかな日常を。その世界に生きる人々を。…そして、絢爛なる力でそれらを守るヒーローを。
　絢爛なる者（物）達の守護者となるべく、絢爛なる彼女は今日も明るく前を向く…

　霧谷雄吾直々のUGNへの勧誘と、それ以降の付き合い。ショウアップヒーロー出演による、ユピテルやメディア関係者とのコネ。消防士次第に築いた同業者や警察関係者との繋がり。ベテランヒーローとしての顔の広さ等等、多方向との繋がりを持つ事から二年前にUGN本部エージェントへと昇進。
　その際にUGN日本支部長である藤崎弦一から言われた言葉は、彼女の脳裏に刻み込まれた。
「盾は万能では無い。距離、攻撃範囲、エフェクトの効果。それらで守れない事もあるだろう。自傷し戦う者も、身命を賭してヴィランを倒す者もいるだろう。
　オーヴァードは不死ではない。リザレクトにも限りがある。侵蝕率が上がりきれば、目覚める為に絆を、日常の繋がりを断つ事となる。それを繰り返した先にあるのはジャーム化と、死だ。
　お前のその力は、自らの絆を犠牲に他者を守り、力を与える物だ。お前のエフェクトが肉体を守る盾ならば、その力は心を守る盾となる。
　だが、それは自身を削る事となる。使い時を誤るな。他者を守る為に、己を守る事を忘れるな。」
　表情や態度に現れずとも、確かに自分を鼓舞し心配するその言葉。その言葉を胸に、恐怖も痛みも飲み込むのだ。

　誰にでも優しく、誰にでも親切で、何もかもを守ると笑う懐の深い、頼れるオネェさん
……それは真実であり、真実ではない。
　奥底には尽きることの無い己自身への嫌悪がある。
　彼は自身への強い嫌悪感を常に抱いている。原因の一つに衝動が嫌悪である事が考えられるが、詳細は不明。
　自分の姿見を嫌悪したが故に、憧れの人を姿見や言動を模倣した。自分の力を嫌悪した故に、消防士を辞め嫌う以前の自分の夢を形にした。
　素の自分の全てを嫌悪し、それを少しでも好きになろうと憧れや理想を模倣するのだ。
　…けれどただ一つ、たった一つだけ嫌うことも模倣する事もない自身がある。
「オーヴァードなのに戦えないのが嫌い」
「痛いのも苦しいのも怖いのも嫌い」
「…それを理由に守れないのはもっと嫌い」
　…守るという意志。救うという理想。それらを貫く為に自身の何もかもを犠牲にできるという覚悟。
自分は守る為に立つのだと疑わず、自分は救う為に居るのだという信念を抱く。その為ならばどれほどの嫌悪も飲み干し受け入れる。
《自己犠牲》
それが当人ですら認識していない彼の本質である。
故にとあるヒーローは言う。「彼ほど素晴らしい人はなかなかいない。しかし彼ほどヒーローをするべきでは人物もなかなかいない。」と。
守るべきものが広く大きくなると共に、犠牲にするものは増えていく。当人は決して、それを犠牲とは認識しないまま。ヒーローとして名を馳せれば馳せるほど、己を削り自滅へと歩む。
また、彼が彼自身の全てを何よりも嫌っているが故にその思考や意志を押し付ける事がない事も、狂気的とも言える自己犠牲が露見しない理由となっている。

「あたしはあたしが何よりも嫌い。けれどなにかを守っているあたしは少しだけ好きになれる。自分の意志は皆の覚悟を邪魔出来る程崇高なものじゃ無い。だから他の人の覚悟や意志を否定しないけど、自分の意志は貫き通す。あたしは偶像でも、理想でもないし、皆が思うほどお利口でも愉快でもない。それでいい。脆く崩れる理想を纏うより、折れず強固な意志を貫いてみせる。手の届く全てを救う理想を、歌い続ける。」
　市民も、ヒーローも、ヴィランでさえも生かして救う。それを当人が望んでいなかろうと。
　どれだけの批難も意見も意に介さず守る為に立つ。意志を貫く。
　｜正義《真作》を模した｜誰かの為の贋作《pour quelqu'un faussaire》は、霞む事無き盾となる。