チルドレン時代の彼は、自らの命を顧みずに戦う血の気の多い性格だった。
優秀な担当教官の教えの下、日々死線をくぐり抜けてきた彼は、いつもと同じように任務に臨む。

しかし、その日の任務は熾烈を極めた。
敵FHのリエゾンマスターとの戦い……
不測の事態に駆けつけてくれた教官と協力し、辛くも勝利を収めることができたが、その教官は能力の使い過ぎでレネゲイドの侵蝕を抑えきれなくなり、自身がジャーム化する前に自らの命を絶ってしまったのだ。
だが、彼の腕はまだ動いていた。教官は昔、あるジャームの右腕を自らに移植し封印していたのだ。
その名は「イフリート」。異様なまでに進化したレネゲイドウイルスにより、腕だけになろうと生き続け、遠ざかろうとする者すべてを焼き尽くしてしまう存在。
イフリートの腕から離れることはすなわち死を意味する。選択肢は一つしかなかった。
許斐は覚悟を決めると、自身の右腕を切断し、イフリートの腕を接続させる。
何度も意識を乗っ取られそうになるも封印は成功し、彼は新たな遺産の依り代となった。

任務は無事遂行し、イフリートの強大な力を得ることができた許斐だが、彼の中に残っていたのは虚しさだけであった。
生まれつきチルドレンだった彼にとって、親代わりであった教官を失った悲しみが心を支配する。
そんな中、亡くなった教官を上層部は英雄として祀り上げ、他のチルドレン達ににその姿を手本にするように諭す。

そんなのは間違いだ……死ぬために戦うなんておかしい。人はみな、生き残るために戦うのだ。
彼の中で凝り固まっていた価値観が、終わりを告げる瞬間だった。

数十年後……
許斐はあの事件後、苦心しながらも勉学に励み、UGN教官としての役職に就くことができた。
未来あるチルドレン達をこれ以上失わないようにする……それには「ロイス」の取得が不可欠である。
そのためには戦闘ばかりに力を入れるUGNの教育方針に、真っ向から歯向かう必要がある。

果たして災厄を生み出す彼の手は、若い者たちの希望紡ぐことができるのだろうか。
今日も、彼の｜授業《たたかい》が始まる。

・彼が授業でロイスを取得させる理由として、チルドレン達を生きて帰らせる以外にも、イフリートに侵蝕されつつある自分自身の自我を保つこと、そしてもし自分がイフリートに飲まれて暴走した場合、自身が育てた教え子たちが自分を打ち倒してくれるでろうと信じているからである。また、日に日に悲しみの感情が無くなっていくのを感じている。

・普段の口調は「僕」だが、イフリートに話しかけるときは感情が高ぶって「俺」になってしまう。口調もチルドレン時代のように荒っぽくなる。