心地よく風が吹く丘陵地。
彼は過ごしやすい気候の中で日差しに目を細めつつ、遠くに見える街の景色を眺めていた。
自身が育った祖国を出て、流れ流れてやって来た極東の地。
世界からしてみればちっぽけな島国かもしれないが、ここには豊かな自然があり、気性の穏やかな人々が暮らしている。

『郷に入っては郷に従え』

この国でのことわざにはそう言うものもあるようだ。
彼はその言葉が気に入っていた。
その土地に根差す人々の在り方は、その土地を映し出す鏡でもある。
所作や人との接し方、その細部を鏡は詳らかに映し出す。
つまるところ、彼の中では、この地は非常に綺麗なものとして映っていた。

「――うしっ、今回の旅はこんなところか。とっとと帰って、旦那に顔見せてやんねえとな」

傍らに置かれた荷物を背負い、男――ケイリー・フリークはI市支部へと向かう。
しかしながら、その道中には大幅な寄り道を挟むことになる。
道中に感じ取った、何者かのワーディングの気配によって。

「おいおい、こんな街中で何をドンパチおっぱじめようってんだ？
――そこのお前！　ちょいと待ちな！
あん？　俺が誰かだって？　おうおう、教えてやるから耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ！

人に仇成す悪辣共を、放っておいちゃあ男が廃る！
義理果たさずして大義はあらず、人情無くして正義なし！
手前が無くした人の道！　ケイリー様が刻んでやらあ！」

口上一番、走駆一閃。
暴れる野良のオーヴァードたちを、千切り投げては呵々大笑。
傾奇者、ケイリー・フリーク。
コードネームに恥じない豪胆ぶりを引っ提げ、男は今日もI市を行く。

人に仇成す悪鬼羅刹を、放っておいちゃあ男が廃る！
義理果たさずして大義はあらず、人情無くして正義なし！
手前が無くした人の道！　しかとその身に刻みやがれ！


子供を殴る趣味はねえが、道を糺すのも大人の定め！
悪意を以ってかかってくんなら、善意で以ってぶん殴る！
目ェ覚まさせてやっから、まずはその歯を食いしばれ！！

友の想いと決意を前に、答えてやらねば漢が廃る！
引導渡すは人の情、手向けに送るは友の情！
手前が生きた生き様は、ケイリー様が見届けてやらあ！