和泉(いずみ)ゆりという少女がいた。彼女は大手企業の社長である父と音楽家の母との間に生まれ、裕福な家庭と優しい両親に愛され幸福に過ごしていた。彼女の変わらないと思われた日常が一変したのは、彼女が15歳の頃だった。
　いわゆる反抗期を迎えていた彼女は友人の家に泊まっていた。後に周囲はそれを不幸中の幸いと言ったが、壊れた日常の中に放り出されることを幸いと評して良いものかは、判然としない。
　彼女の家族は、衝動に呑み込まれたジャームによって惨殺されていた。家は荒らされ、金目の物は持ち去られた。《ワーディング》に阻まれ犯人の行方は知れず、ジャームの仕業と知れた時点で捜査はUGNに引き継がれ、表の人間である彼女には捜査打ち切りと告げられた。
　――故に、彼女は全てを捨てて独りで追った。最低最悪な犯人、突然捜査を打ち切った警察、同情的な目を向け「家族のことは忘れろ」という周囲の人間、その全てが信じられず、自分だけで。彼女の両親が遺した大きな資産と、その身の内に生まれた異質な"力"が、孤独な追走劇を可能なものとした。UGNに出会い、しかし宿敵を追うことは誰にも譲らず、手伝わせず。遂にそれを果たした。
　その後の彼女は、両親に付けられた名に自身の憎悪を込めた黒を足した名を名乗り、永い後日談の中にいる。

　"音を奪う"ジャームによって音楽家達が襲われ、その歌を奪われる。そんな事件が起きていた。次の標的と目される海野(うんの) 愛凛(まりん)の護衛として呼ばれたわけだ。私立探偵とUGN支部長とアスリートと神と戦隊もののレッドの5人……5人かな？　3人と1柱と1体とかじゃない？　――まあ5人ってことにしておこう。
　愉快な仲間達といった有り様だが、もっと愉快なことに護衛対象である愛凛が「あなたたちが私の代わりにステージに立てばいいじゃない！」と唐突に宣言。私としては面白そうだし合理的だしととりあえず同意し、他の皆もなんだかんだで同調した。そうしてデコボコアイドルユニット、B0X-PALLETが誕生したわけだ。
　紆余曲折あってジャームは撃退できたし、幻の一夜ユニットとしてB0X-PALLETもそれなりの成功を収めたし、任務は大成功といって過言ではない。愛凛からは引き続きアイドルとして活動しないかと誘われたが、断った。B0X-PALLETは「海野 愛凛が目を付けた」という架空の価値があったからこそ成立したユニット。嘘だらけの私だけど、いけない嘘は心得ている。それは人の純粋な想いを謀る嘘。だから、私達が私達のままアイドルを続けるわけにはいかない。
　――ゆえに、私は改めて1からアイドルを目指してみようと思う。人の前に立ち、歌うことの楽しさを知ったから。死ぬ前に再びあの舞台に立てるといいな。