得意教科は理数系。運動は若干苦手だが、弓道の授業では驚異的な成績を見せ弓道部にスカウトされている。「母さんが入院してるからバイトしなきゃいけなくて……部活には入れないんだ……ごめん！」と言って断っているが、勿論嘘である。
幼い時からオーヴァードとしての力を持ち、気付いた時にはチルドレン施設で育っていた。母親の記憶も、父親の記憶もない。どうしてオーヴァードに目覚めたのかも、覚えていない。琉御の記憶のはじまりは、「UGNへようこそ、カジャ。今日からここが君の暮らす"家"だよ」と言って笑いかける職員と、その隣に立つ少年の姿。それだけだった。

嚆矢とは同じチルドレン施設で育った仲。数日差で施設に入ったこともあって周囲からは兄弟のようだと言われており、本人たちもまんざらではなかった様子。
根本的に仲間思いな部分で気が合ったのか、切磋琢磨し合うライバルという面は持ちつつも、それ以上に気の合う親友同士。爆発力のある近接攻撃で前線に出る嚆矢と、安定感のある中距離後衛として前線をサポートする琉御はバディとしても相性が良く、共に任務に就くことも少なくなかった。
一方、心の裏では類まれなる運動能力と戦闘能力を持つ嚆矢に対して、「ああなりたい」「どうしてああなれないのだろう」という嫉妬心や劣等感を抱いていた。親友に対してそんなことを思ってしまう自分を許せない気持ちで沈んでしまうことも。
琉御の能力は、「安定して攻撃を当てることができる精密射撃」「武器がなくてもすぐに戦える」という点が評価されているものの、本人はあまりいい気がしていないらしい。
ある任務後には、「下振れしない兵士が便利っていうのはごもっともだよ。自分でもわかってる。だけど、それは同時に上振れもしないって事だろ。俺は……いつだって"期待通り"だし、"期待以上"にはなれないんだ」と嚆矢にこぼしたりしたこともあるとか。基本的に人に弱みを見せたくない性格ということもあり、へこんだときも翌日にはけろっとしている。

ある日、嚆矢が任務中に命を落としたという連絡を受ける。場所はN市だった。
――あんなに強いあいつが、簡単に死ぬわけない。絶対に、生きてる。
そう信じる琉御の目の前に、嚆矢が現れる。「お前、死んだって。嘘だよな！だよな。よかったぁ、よかった……」嚆矢に伸ばした手はしかし、なににも届かない。目の前に確かにあるはずの嚆矢の体は、一部だけがゆらめいて消えた。
「……嚆矢？」
返答が返ってくる。会話はできる。だが、なにかが。なにかがおかしい。中身がない。からっぽ。そんな印象が琉御の中を巡っていた。
その日から、奇妙な幽霊との生活が始まった。

「琉御？ああ、なんかたまに目にクマ作っててさ。お母さんのこともあるし大変なんだろうけどちゃんと息抜きできてんのか心配だよな」
「火燈くん、この前深夜に見かけたんだよね。終電やば！って言って帰ろうとしたとき、繁華街で。たぶん見間違いじゃないと思うんだけど……こんな時間までバイトしてるんだあ、えらいなって」

幽霊との日々の中で、琉御はたしかに消耗していた。
誰かといる時は、幽霊は現れない。しかし、誰かといるあてもない。
眠れない夜が続き、夜の街を一人彷徨ってはオーヴァードの保護やジャームの掃討をするような日々が続いていた。