父はおらず、残された母もホストに入れあげて蒸発し、家ももはや無く裏路地に取り残された幼い日のカズヤはヤクザに拾われた。
愚かな母を地獄に落とした当のホストクラブのケツモチをしていた暴力団だったが、のちにそうと聞かされても何の感慨もなかった。

ツラが良かったのでお前もホストになれと言われたときでさえ。
言われた通り自分には向いているとすぐにわかったし、女の相手しながら--さすがにホストと客の分別はあるが--酒を飲んで、飯の恩を返せるなら悪い気分ではなかった。


その頃はエフェクトについては無知だったが、おそらく無意識に使っていたのだろう。
何人もの女性から理性を奪い、型に嵌め、地獄へと突き落とした。
まあ、仕方ない。
女など皆そんなものなのだから。
『そうでないというなら、オレの母はとりわけの屑じゃないか。』

しかし、ある夜やって来た女は違うようだった。
良いように操ろうとしたのをはねのけ、オレとあの女以外その場の全員を気絶させて、この世界の真実とやらを語った。
その上で、「気に入った。こんな所よりいい舞台に上げてやる。」というのだ。

連れられて行ったその場所は『新人類研究所・超越芸術研究室』
その名の通り、オーヴァードだからこそ追求できる、エフェクト行使を前提とした芸術表現の模索を使命とした研究室だという。

「酒に関しては適任だろう。吞ませ方も含めて。」
「特別な我ら新人類のための特別な酒宴を演出して頂きたい。楽しみにしていますよ？」
陰気そうな女と燕尾服の男は、そう言って笑った。