４年前の夏、まだ和奈が小学生だった頃、彼女はFHチルドレン、"ナイチンゲール"と"ソングバード"による⬛︎⬛︎書店爆破テロに巻き込まれた。多くの死者が出ており、エージェントが生存者の確認を行なっていたところ、黒く焦げた瓦礫の中にうずくまる一人の少女を発見した。当初そのエージェントは彼女を"ナイチンゲール"と思ったらしいが、それが和奈であった。明らかに致命傷を受けているにも関わらず息がある様子からオーヴァードであると身柄を確保して近くの支部へ運び込み、その時に"ナイチンゲール"ではないと確定した。意識を取り戻した和奈はレネゲイドによる世界の変容、UGNとFHについて伝えられ、当初はひどく狼狽していたが、現実を受け入れ、自分のように傷つく人がでないようにと自らUGNの戦闘員として志願した。
　彼女は表向きには原因不明の爆破事故に巻き込まれて行方不明になったとして扱われている。それにより、通常の学校には行けないため、チルドレンの養成施設に入れられた。しかし誰かと関わることを避けており、そしてどこまでもただ、強くなることだけを望み、ソレに呼応するように彼女のレネゲイドはより攻撃的に、宿主の肉体すら傷つけるほどに変容していった。
　彼女の初の実戦は、我々の記憶に強く残る出来事となった。民間人の虐殺を企んでいたFHエージェントの尻尾を単独で掴んだ和奈は、誰にも告げず一人でそのエージェントの棲家へと襲撃した。そして我々が到着した時、その場には無残な焼死体と全身に酷い火傷を負い倒れた和奈がいた。その件により、彼女のレネゲイドは「対抗種」であると判断された。その後も、彼女はどの任務でも自身の安全を顧みない戦いを行い、いつしか「諸刃の雷撃」と呼ばれるようになっていた。
　彼女は何度も"ナイチンゲール"と決着をつけるためにその足取りを追っている。我々にも何度か情報が欲しいと言ってきた事もあったが、文字通りどこまでも追いかけていってしまいそうだと考え、情報は秘匿することになった。なお、それでも個人的に足取りを掴み何度か交戦しているとのこと。

彼女は常にエンジェルハイロゥの力で本当の姿を隠している。極めて困難な戦闘時にのみ、そちらに力が割けないため本来の姿を見せる。常に身体を蝕む対抗種の影響か、ストレスで髪は真っ白に染まり、目は充血し赤く染まっている。そして身体中に雷撃傷が入っている。傷口に衣服が癒着しないよう、最低限の布面積の衣服を着ている。その事を知った一部の同年代のチルドレンから、からかわれることがあったそうだが、本当の姿を見たチルドレンは泣きながら謝罪したという。

——そんな姿になっても尚、彼女が戦うのをやめない理由は、ただ、自分のようになる人がこれ以上出ないで欲しい。というものだ。何度も我々は静止した。それでも彼女は、戦いを願った。それに、彼女は優しすぎる。もし彼女の宿敵、"ナイチンゲール"と決着をつける時、あり得ない話ではあるが"ナイチンゲール"が戦いを拒んだ場合、彼女は許してしまいそうに感じる。そんな優しい子が、こんな姿になって戦い続けるのは、非常に心苦しい。


「私は、ずっとアイツと決着をつけたかったの。けど、もう叶わない。アイツは日常を求めてたし、日常を求めるアイツに戦いを無理やり求めるのは、UGN…いや、『私』が許さない。みんな、日常を求めてる……帰るべき世界があるんだ。だから、私がみんなを守る。私は……『天音和奈』はもう、この世界にいない。私は……亡霊なんだ。私はもう、日常に戻れるような身体じゃないし、私には帰る日常がない。……だからどこまでも行ってやる。みんなを守る、私一人の犠牲で済むなら、こんな命、何個だって捨ててやる！」

（とある任務の音声ログ）
「はぁ、はぁ、ジャームの沈黙を確認。任務終了……。（地面に倒れる音）う……ぐ、ぁあっ……痛い……我慢しろ、私……これぐらい、なんてこと……！うぁああっ！（立ち上がる音）はぁ、はぁ、帰らないと……ワーディングも解けちゃったから、早く……他の人が来る前に……あれ？この場所……そういえば、この辺りに私の家が……あった！お母さんもいる！教官は家族とはもう会えないって言ってたけど、私が生きてるってお母さんが知ったら喜ぶかな……？（ドアを開けようとする音）空いてないか……（呼び鈴の音）お母さん、私だよ！」
（ドアが開く音）——誰かしら？私に子供はいないわよ？
「え……？私だよ、和奈だよ？」
——知らないわ。イタズラはやめてちょうだい……って、その服に付いているの、まさか血液っ！？け、警察っ！
「待ってよ、お母さん！わた」
——私に子供はいません！来ないで！！あなた、警察を！
「え、わ、私は……わぁぁああっ！！（走る音）」


「私は……私は和奈。⬛︎⬛︎と⬛︎⬛︎の子供……。私はここにいる。……なんでお母さんは私を分からなかったの？私はどうしてお母さんに気づいてもらえなかったの？私は本当に存在するの？わかんないよ……。ナイチンゲールが何かした？いや、アイツにそんな力無いはず。だってアイツは私と同じ電気使いでしょ……なんで、わかんない、わかんない、どうして……どうして……うぅ……ぁ゛ああああ！！」


「……あの後知ったけど、私がチルドレンとして活動する上で、行方不明なのに目撃情報があったら面倒だからって私を知ってる人、殆どに記憶処理をしたらしい。まさか直接会うとは思わなかったって言ってたけど、流石に酷いよ。まだ子供だけど、それでも何も知らない訳じゃないから。教えてくれたってよかったじゃん。皆が思うほど私は弱くない。痛みはとうの昔に忘れたし、涙はつい最近出し尽くした。それに……ほら、見てよこの姿。真っ白で、真っ赤で不気味でしょ？まるでお化けみたいでしょ？。……ねぇ、面影島。死者が蘇るなら、私を蘇らせてみせてよ。誰も知らない、忘れ去られた亡霊を！」

〈診断記録①〉
⬛︎⬛︎書店爆破テロの生存者であり、オーヴァードへの覚醒を確認。
【名前】天音和奈
【性別】女
【シンドローム】ブラックドッグ

自身の肉体を構成する細胞をレネゲイドに変異させ、尋常ではない出力を可能にしている。体内で対消滅反応を起こしているようで、エフェクト使用時にかなりの苦痛を伴うようだ。
　彼女のレネゲイドは「負のエネルギー」を持っていると考えられる。

〈診断記録②〉
二つ目のシンドロームを確認したため、プロファイルを更新する。
【名前】天音和奈
【シンドローム】ブラックドッグ/エンジェルハイロゥ

エンジェルハイロゥのエフェクトは彼女の肉体の損失を抑えるように働いている。自己修復とまではいかないが、彼女に制限をかけているように見える。


　「最近、幻聴がひどい。それに、まるで脳がもう一個増えたような感覚がしてきた。知識も、私じゃない誰かのものが入ってる……というより、もう一人「違う私」が増えたみたいな感覚がする。この島のせい？わかんないけど、この声は私を心配してくれてるみたい。まぁ、邪魔はしないみたいだからいいや。
面影島……オモイデ様……死んでもよみがえるなんて、そんなの許せない。そんなことがあったら、命の価値があまりにも安くなってしまうから。そしたら……私がいままで奪ってきた命は？私が今まで失ったものたちは？
　何年か前、誰から聞いたんだっけ？死んだ人が帰ってくるって、海外のお話。なら、私はその名前をこの武器につけるよ。……命に叛逆する者、「｜叛命《レヴァナント》」。何度でも戦場に戻れるように、何回だって死の淵から帰ってきてやる。そういえば……｜裏切り者《ダブルクロス》……か。そうだね、私は裏切り者だ。倒すと決めた相手を手にかけるのにも躊躇して、日常を必死に守る人を殺して。わかってるし、もういいよ。私はよみがえりを終わらせる。失ったモノは戻らない。そんな当たり前を忘れたなら、たとえみんなと敵対しても、忘れられないように刻みつけてあげないとね。私は……｜背教者殺し《カウンターレネゲイド》なんだから。」

「和奈の体はもう限界が近い、というよりもう限界を超えているの。和奈は生まれつきレネゲイドへの適性が強い。いや、強すぎたの。そのため自身の持つレネゲイドの性質を自分すら滅ぼさんとするまで攻撃的に変質させた。それにね、和奈。あなたは優しすぎるの。自分がどれだけ傷ついても、誰かを守るために、どこまでも自分の体を削っていく。たとえそれで命を落としても、あの子は後悔しないと思う。
　……和奈の身体はだいたい三割が機能を停止している。消化器官はひどく衰弱し、心臓も本来であれば非常に弱々しい鼓動しか打てない状態なの。しかも感覚器官はほとんど死んでいる。だから、エンジェルハイロゥの超感覚とブラックドッグの生体電気の増幅で強引に動かしている状態なの。でも、それを続ければいつか衰弱死する。
　治療も、レネゲイドを用いない手段だと傷に追いつかない。レネゲイドを使用すれば、和奈が変異させたレネゲイドが他の介入を拒む。もはや自力で制御することすら不可能な状態なの。オーヴァードの自己修復能力も、意味を成さないほどになっている。
　長く見積もっても、和奈に残された時間は二ヶ月あるかどうかね。理性は残ってるし、思考もできるけど、身体はレネゲイドに侵蝕されすぎて、もはや人間なのかレネゲイドなのかわかんないくらいになっちゃってる。私でも、どうすることもできない。ようやく和奈に私の言葉を伝えられるようになったのに。
　和奈の武器、あれは和奈が願った「全てを殺す武器」。絶対に"戦場"に戻るって意思を込めてるらしいの。そう、戦場。日常はもう和奈にとっては戻る場所じゃなくて、帰れない場所なの。だから、自分に残された命を、一つでも多くの誰かの日常を守るために使うって。
レヴァナント、死に戻る者。いい名前だと思うよ。和奈、私はあなた。でもあなたは私じゃない。意思を得たからこそ、あなたに言葉を届けられるようになったからこそ、私はあなたに生きてほしい。日常に戻ってほしい。でも、あなたはそれを望まないんだよね？わかってるよ。だからその片道旅、私も連れてって。あなたの人生を奪った罰として。あなたの｜共犯者《レネゲイド》として。」

【｜追憶《ついおく》の｜叛命《レヴァナント》】
　和奈の持つ浮遊砲……だったもの。右腕に直接接続し、もはや彼女自身が武器といえる。
　面影島での激しい戦闘の連続により、浮遊砲が耐えられる稼働限界はすでに超えていたため蓄電装置、制御装置、射出装置が破損し使用不可能な状態になっていた。しかしそれでも戦場に留まるため、己の肉体をその代わりとして接続した。面影島に来る以前から続く戦闘により、浮遊砲内部にはレネゲイドが堆積していた。そのレネゲイドは過去の戦闘によるあらゆるシンドロームのレネゲイドが堆積しており、そして面影島で接触した「起源種」「古代種」「賢者の石」によりそれらが過剰活性化し、あらゆるレネゲイドを破壊することに特化した「戦闘時のみ活性化する賢者の石」として彼女の体表に現れた。適合者でもなく、安定しているものでもないため、戦闘のリソースとして扱うのであれば成功は他の適合者には及ばない。それでも、戦闘の時のみは彼女の身体能力を極限まで高め、喪失した感覚を一時的にだが、蘇らせることができる。天音和奈はあの時死んでいた。残った抜け殻は兵器となった。この力で誰かを守れるのであれば、彼女は災禍すら焼き尽くす雷となるだろう。

感情の昂りに応じて彼女の目は真紅に染まる。喪失した視力を補うべく、レネゲイドが代わりに彼女の目となる。そして周囲には輝く粒子が飛び交う。宇宙を照らす星々に似たそれは彼女の想いを模る。それは剣、それは嵐、それは塔、それは銃、それは——彼女の記憶。自身の武器と一つになり、戦いの記憶を光が再現する。さあ、心を解き放って。

①［D］対抗種
　和奈のレネゲイドの性質を表すDロイス。和奈の思想の根底にある自己犠牲の精神がレネゲイドに反応し、己を傷つけるほどの攻撃性を獲得した。

②六白霧人
　……あいつは私を利用しようとした。計画が狂いそうだからって、小春を殺した。許せないけど、衝動に飲まれていたのなら、仕方ない。仕方ないわけないけど……みんな、そうだから。

③雪浪悠希
　あいつは、私が取り戻せない「日常」に帰れるはずだった。でも、あいつの｜賢者の石《レネゲイドクリスタル》が許さなかった。だけど、私と違うから、きっと帰れる。私が……取り戻させる。

④⑤両親
　私のお父さんも、お母さんも、私のことを知らない。その方が、みんなは幸せだから。無くなったものを引きずる必要はないから。……でも、会いたいよ、もう一度！私は……私は、会いたいよ！話がしたいよ！

キャラクター像について：
天音紅葉（あまね・くれは）
>>"包容力のある母"南条春子　HL p.51参照
天音智樹（あまね・ともき）
>>"正体不明な父"畔柳温彦　HL p.55参照

⑥ミュース
　私に色々教えてくれたヤツ。レヴァナントの話とか、レネゲイドについてUGNが教えてくれないヤツとか、色々。結局、なんだっけ……くさなんとかってヤツに襲撃されて殺されたんだよね。もっと色々聞きたかったよ。

キャラクターについて
ミュース
「｜賢者の石《レネゲイドクリスタル》」の適合者だったが、"マスターレイス"日下部仁の手により死亡した。フィンランド出身であり、自覚はなかったがオーヴァードとして覚醒しており、「｜世界の支配者《ダイナスト》」のワーディングの時に自分が普通ではない存在だと知覚した。その後、UGNの存在を知り、自らその門を叩いた。ノイマン・シンドロームであることを加味した上でも高い洞察力と判断力から、チルドレンでありながらも本部エージェントとしてUGNに尽くした。ある日、日本で勢力を拡大しているFHの対策のため日本に派遣され、そこで和奈と出会った。本当にただ普通の少女だった和奈を見て最初は哀れんだが、その根底に潜む強い野心を垣間見、レネゲイドの扱い方や衝動の抑え方と「解放の仕方」を教えた。

"｜指し手《プレイヤー》"ミュース
「指揮系統を落とすのはいい判断だ。……でも、油断はよくないよ？」
性別：男　年齢：17歳（和奈は当時15歳）
クロス：ノイマン/ハヌマーン
ワークス/カヴァー：UGNチルドレン/高校生
Dロイス：賢者の石

　UGNの本部エージェントであり、主にレネゲイド抑制・開放の研究を手伝っている。喉に発露した賢者の石の力で、声でレネゲイドを操作でき、自分以外のレネゲイドに干渉して相手の体内で異常活性させ無力化や強化を行える。
　チルドレンとして登録はしているもののそこらの支部長より権限は高いため、よくコミュニケーションの齟齬が発生することがある。また、自身より策略に長けた相手や特殊なレネゲイドを持つ相手には強い興味を示し、それが敵であっても尊敬の念を示し、研究させてくれないかと頼みこむ変人でもある。

エフェクト
《コンセントレイト：ノイマン》Lv.2
《言葉の刃》Lv.5
《風の渡し手》Lv.5
《アドヴァイス》Lv.5
《覚悟の鼓舞》Lv.3
《狂想の旋律》Lv.3
《音波調律》Lv.1
《シルフの唄》Lv.1
《理知の城壁》Lv.1
ほか

セリフ集
一人称：僕　二人称：キミ/名前呼び
挨拶「はじめまして、僕はミュース。キミはどんなレネゲイドを持っているんだい？」
戦闘「戦いは嫌いだけど、苦手とは言っていない。時には言葉は何よりも強い兵器となるんだ。」

⑦天音和奈
　まだオーヴァードとなる前の弱気な自分。死を恐れ、恐怖から逃げ出したい普通の少女。これが本当の彼女の姿なのだとしたら、本当の「天音和奈」はもういないだろう。

メモリー
❶"ナイチンゲール"
　私の生きる意味だったのに。彼女への復讐に"執着"した末、それが終わったら私に何が残るの？

❷小鳥遊小夜
　友達になれたはずだったのに。私が諦めた日常を、諦めずに望んだ。私は彼女よりも"劣って"いる。

❸面影小春
　分かり合えたはずだったのに。仕組まれた運命に抗えそうだったのに、私が彼女の最期になってしまった"後悔"。