裏社会の人間とつるむ事が多かった　はその日、あるビルの一室にやって来ていた。
今回はある組織の用心棒として、その組織のトップの人間に雇われていた。
いつもの用心棒の仕事。立っているだけで終わる楽な仕事。今回もそうだと思っていた。
───病弱な娘。法外な額の金。ありきたりな裏社会の話だと思った。
少し違ったのは...『その娘が治療を断った事。』
『お父さんがそんな危ない目に遭う位なら、私は死んでも構わない。』そう言って断ったらしい。
その父親は...娘の選択を尊重し、元々払うはずだった金を返しに来た、といった所だった。
だが組織のトップはそれを許さなかった。
『お前の為に金を貸したのに断られたからと返すバカがどこに居る』
『貴様に金を貸すのがこっちの商売だ』『そのまま返されては商売にならないではないか』『なら仕方がない、治療を受けさせざるを得なくさせて貰おう』
そう言って自分達に、この父親と娘を痛めつけて来いと指示して来た。
もう片方の用心棒は父親である男を痛めつけ出した。自分も途中までは男を蹴って痛めつけていた。
だが父親の男は抵抗しようとしなかった。ただひたすら、何も言わずに蹴られていた。
ひとしきり痛めつけ、トップは拳銃を持ち出して来た。
『お前には生きている価値がない』『お前のそのバカな娘もだ』
父親の男は、
『───娘の”選択”を尊重できないで、何が父親だ。』
『私の娘には...それだけの”価値”がある。』
正直、何であの時飛び出したかはよく分からない。
ただ、この父親の選択を。娘の選択を。無下にしてはいけないと、思ったから。
撃たれた後、夢を見た。
自分にあった心の傷。それが全て消えていた様な感覚だけは覚えている。
次に目覚めて見たのは、怯えるトップの顔、不気味に見てくる用心棒共。...唯一、ただ驚いているだけの父親の男。
そして、自分も一緒に襲って来た用心棒共を蹴散らして、自称トップが拳銃を乱射して来たから弾丸を弾く為に自分の血から武器を生み出して、壁に蹴り飛ばしてやった。父親の男には娘さんの入院費って事である程度金を渡して逃した。
ただ、バイサズとして目覚めてしまった事で人肉に強く惹かれてしまっていた...だが。
「救急車なら呼んでやるよ。行き先は警察病院だけどな。」
「───お前の肉なんざ、死んでも喰わねえ。」
そう吐き捨てて、彼女はそのビルを後にしたのだった。

シンドロームはブラム/ノイマン。血液から生成した剣や槍を、ノイマンの思考能力と併せて振るう。また、”血液の味が解る”事から代替食の血液や”血精”（コンデンス）から、血液の主がどの様な経験・感情を持っていたかを理解する事ができる。また、記憶力にも優れている為、特定の人物の血の味を覚えておく事もできる。

現在はまだ、人肉を口にした事はないがバイサズとして人肉に興味を持ってはいる。（なのでDロイスもまだ無い。）

蟻都 寧（ありあど ねい）という名前は本名ではない。というかそもそも名付けられる事も無かったし、元の親の苗字も覚えてないからこう名乗っている。