「なんだ？キミ、ボクの出生に興味があるのかい？」
「そんな検閲だらけの資料を読んだって、ボクを知った気にすら慣れないと思うけどさァ。」
　
　

扉を開く音はなかった。すぐ横に｜案内人《彼》は居たのだ。
形容できぬ不安感に思わず、資料を落として後退る。気づけば、闇の中央で其は立っていたのだ。
　
　

「…｜ともだち《裏切者》になろうよ。エージェントくん。」
「そうだな、まずは｜お話《オハナシ》からかな。」
　
　

彼は｜二つ名通り《案内人》の、その｜シンドローム《天使の輪》に似合わぬ地獄の門を叩いたのだ。
…正直これ以上は思い出したくない。そっとしておいてくれ。

―記録者：とあるＵＧＮエージェント

政治家である以前に、子供好きであった琴音直樹は、妻である女性との間に一人の子を授かった…が、生まれ落ちたのは光に包まれた男児であった。政治界の中でもそれなりの地位にいた彼は悟った「この子を世に出してはならぬ。もし、この子の存在が世に出回ってしまえば、それこそ日本全体のバランスが不安定になるのでは。」と。
親バカと言えばそれでお終いなのだが、未来の我が子の為にも母となった妻と真剣に相談し、琴音直樹の一人息子の名前や顔写真、その他諸々を徹底的に隠蔽した。
そして、人脈を頼りにＵＧＮに我が子を託した。その後に彼が｜事故《諸事情》で亡くなったのは、預けてから僅か三日の事であった。

クリスマスを間近に控え、浮き足立つ藤海市。
しかし謎の大寒波も訪れ藤海市を襲う。
徐々に機能を停止していく街。
眠るように、あるいは凍死するように静かに音を失っていく。
クリスマスまで、あとわずか。
迎えるのは温かな日常か、冷たい滅びか。

ダブルクロス the 3rd edition

Silent Night

ダブルクロス――それは、裏切りを意味する言葉。