あの日は朝から雨が降っていた。
その日彼女はそわそわしていて、それに僕は何も気が付かないでいて。
彼女が悲しそうに「行ってらっしゃい」と僕を見送ったことがずっとひっかかっていた。

昼休み、彼女が作ってくれた愛妻弁当……まだ結婚はしていないけど、もうすぐそうなる彼女の弁当を開いて、そこに作られたハートを見て思いだした。

そうだ、僕らが付き合って8年目の記念日の日だ。
それを忙しさで僕はすっかり忘れていた。

急いで彼女に謝罪のラインを入れて仕事に戻った。

定時で上がってそれを確認すれば既読が付いているだけで返事はなかった。
きっとまだ怒っているのだろう。無理もない。
申し訳ない気持ちになりながら、駅近くの人気のケーキ屋でケーキを買い、花束を買った。
きっと彼女が喜ぶと思って。

＿＿＿＿最寄り駅について僕が見たのは。
降り注ぐ赤い雨。
むせ返るような血の匂い。
そして地面いっぱいの赤。

毒とレネゲイドを含んだ雨が彼女と僕の住む街に降り注いで、毒に苦しみ血を吐きながら死ぬ人、理性を失って他の人を傷つける人、倒れこむ人。
そこは真っ赤な地獄。天からの赤か、人から出た赤なのか。鉄の匂いが転がっている肉塊からするのか、雨からするのかわからない。
彼女は、と探せば。

彼女は傘を忘れた僕に傘を届けにきてくれていたらしい。
目の前で髪を振り乱して、獣化した腕を振るう彼女の手には、2本の傘が握られていた。

ケーキも花束も放り出して彼女を止めようと抱きしめた。

すると。すると彼女は僕の腕の中で苦しみだし、痛みに絶叫して。
最後に一瞬だけ僕を見つめると、そのまま息を引き取った。

何がなんだか分からなかった。ただただ降りしきる赫の中、僕は慟哭した。
僕の慟哭に応えるように、いや、文字通りそれに応えて赤い雨は降り注ぎ
その場にいた理性を失った人々の命を奪っていった。

＿＿＿＿UGNが後処理にやってきて、僕を見て「ああよかった、ジャームでない者がいた」と言って僕を保護した。
その時に聞かされたこと。
あの赤い雨はレネゲイドウィルスが多量にふくまれており、街のほとんどの人間が死亡あるいはジャーム化したらしい。
そして僕も例に漏れず感染して覚醒していると。
僕が慟哭したときに強くなった雨は僕の力であり、僕は「レネゲイドを殺すレネゲイド、対抗種」になっていると。

「ジャームになった時点でもう人間の思考は保てなくなっている」
「君の行いは人殺しではない」

そう彼、霧谷は言った。

でも僕はこの手で、彼女を、咲織を殺してしまった、それは紛れもない事実になった。

だから僕は。
あの悲劇を繰り返さないために　あの日僕が殺した君への罪滅ぼしに。
レネゲイド災害を排除する。
この世から全部。全部。

世界で人々がオーヴァード化・ジャーム化するレネゲイド災害が頻発していた。

その原因としてまことしやかに噂された“遺産”があった。

周囲にレネゲイドをばらまき、汚染すると言われる“遺産”。
それこそが―――

“エレウシスの秘儀”。

遺産を所持するのはＦＨのマスターエージェント“マスターレギオン”。
彼が乗車する東京へ向かう豪華寝台列車“マリンスノー”で起きるレネゲイド災害。
暴走を始める列車の中で、傷だらけの少女と出会う時、全ては始まった。

ダブルクロス The 3rd Edition

『エレウシスの秘儀』***

―――ただ、綺麗な物として在れたなら、どれだけ良かっただろう。

【プリプレイ】
```シナリオデータ
プレイヤー人数：2～4人
PCの消費経験点：30点4点(イージーエフェクト2つ分)
サプリ環境：基本・上級・EA
プレイ時間：7時間～9時間
推奨技能：《情報：UGN》、《知識：レネゲイド》
ミドルから使用できるシーン攻撃のエフェクト推奨。
敵に従者が存在するため、行動値が9あると先手が取れます。
敵との距離は10m離れている場合があるので、特に白兵型は戦闘移動10m確保が推奨です。```

【ハンドアウト】
PC①
> ワークス/カヴァー：UGNチルドレンorUGNエージェント/任意
> ロイス：治癒の力を持つ少女
> 推奨感情：P庇護/N不安
```君は横浜近郊ＭＭ地区支部に所属または協力するオーヴァードだ。
君はMM地区支部長PC3からの指示または依頼で、遺産“エレウシスの秘儀”の確保に向かうことになった。
その遺産“エレウシスの秘儀”は人々をオーヴァード化・ジャーム化させる非常に危険なものらしい。
遺産を所持するのはFHの“マスターレギオン”だが、遺産確保が最大の目的であり、戦闘の判断は君に一任されている。
君はエレウシスの秘儀がある豪華寝台列車“マリンスノー”へ潜入するため、MM地区が用意したヘリへと乗り込むのだった。``````●オープニングで豪華寝台列車“マリンスノー”へ潜入します。
その後すぐに戦闘描写になります。```

PC②
> ワークス/カヴァー：UGN系列(アクシズや本部も可)/レネゲイド災害緊急対応班
> シナリオロイス：遺産“エレウシスの秘儀”
> 推奨感情：P執着/N憎悪
> 指定設定：大切な人をレネゲイド災害によって喪っている。
```君はＵＧＮ中枢評議会(アクシズ)評議員テレーズ・ブルム直下のＵＧＮレネゲイド災害緊急対応班『マルコ』の隊長だ。その権力はレネゲイド災害に関するものであれば日本支部長の霧谷雄吾をも超える。
君は世界中でレネゲイド災害を頻発させる遺産“エレウシスの秘儀”を破壊するために追っていた。
君は“エレウシスの秘儀”をＦＨの“マスターレギオン”が所持している事、その“マスターレギオン”が東京へ向かう豪華寝台列車“マリンスノー”に乗っている事を知る。
君は“エレウシスの秘儀”を破壊するため、装甲列車を使った強襲作戦を計画するのだった。``````●オープニングで豪華寝台列車“マリンスノー”へ、装甲列車をぶつけ、列車内へ突入します。
突入の際は、マルコ班への号令をお願いします。```

PC③
> ワークス/カヴァー：UGN系列/UGN支部長
> シナリオロイス：遺産“エレウシスの秘儀”
> 推奨感情：P傾倒/N厭気
```君は横浜近郊ＭＭ地区の支部長だ。
君はUGN日本支部長霧谷雄吾から指示を受け、遺産“エレウシスの秘儀”確保の作戦に携わることになった。
“エレウシスの秘儀”に関係すると思われるレネゲイド災害は過去にMM地区でも発生していたこともあり君は快諾する。
“エレウシスの秘儀”を所持する“マスターレギオン”は東京へ向かう豪華寝台列車“マリンスノー”に乗車しており、君は横浜駅でそれを強制停車・包囲する作戦を立てた。
君は作戦をより確実なものとするため、腕利きのオーヴァードであるPC①へ寝台列車への潜入を指示もしくは依頼するのだった。``````●オープニングで暴走した豪華寝台列車“マリンスノー”が横浜駅に突入してきます。
部下に元気なエージェントがいますので協力して被害を食い止めてください。```

PC④
> ワークス/カヴァー：UGN系orフリーランス/任意
> シナリオロイス：“マスターレギオン”ヴァシリオス・ガウラス
> 推奨感情：P感服/N脅威
> 指定設定：オリジン：ミネラルのレネゲイドビーイング『アリオン』がいる(付き合いの長さは任意)
```君はUGN系列のエージェント、もしくはフリーランスのオーヴァードだ。普段から世界を転々としており、各地の支部とギブ＆テイクの関係を築いている。
君はFHのマスターエージェント“マスターレギオン”ヴァシリオス・ガウラスと因縁があり、これまでに幾度も激突した。(彼がFHエージェントになる前からの知り合いでも良い。この設定はGMと相談すること)
君は今度こそ彼と決着を付けるため、豪華寝台列車“マリンスノー”へと乗り込むのだった。``````●オープニングで“マスターレギオン”と対峙しています。
豪華寝台列車“マリンスノー”の旅のフィナーレをお楽しみください。
```