履歴
有栖川あやめには、双子の妹がいた。
見た目も振る舞いもそっくりなその子を、しょうちゃん、と呼んでいたことはおぼろげな記憶の中に辿ることができる。
姉妹仲はいたって良好、どこに行くにも一緒が良くて、そんな姉妹をほほえましく見守る両親がいて、今にして思えばまさしく理想の一家だったのだと思う。
そう、無慈悲な交通事故が一家の命をあっけなく、無造作に奪うその日までは。
立ち上る煙、燃え上がる車の破片の中、かすむ目と焼け付く喉を引きずって、動かなくなったしょうちゃんに震える腕を伸ばした。
その手がとぷり、としょうちゃんの身体に沈みこんだ。桶の水に手を入れるように、一切の抵抗もなく。
そうして記憶が、力が、しょうちゃんの人生が流れ込んでくる。ふと気づけばその場にいるのはあやめ一人だけだった。まるで”しょうちゃん”なんて子は最初からいなかったかのように。
事故現場から体の欠片すら発見されなかったしょうちゃんは行方不明として扱われた。しかし二度と見つかることはないと、彼女はすべてを理解していた。
覚醒した力で姉妹を取り込んでしまったのか、それとも――最初から双子なんて存在していなかったのか。今となってはもう分からない。どちらだろうと、「起こせる事象」だからだ。
以降、歳をいくつかかぞえるたびに、彼女は自らの一部を切り離し、それまでの人生をどこかに置いてきたかのように幼く姿を巻き戻す。事故が起きたその時まで。
そうして一人だけ時間の中に立ち止まっているかのように、姉妹たちを送り出すのだ。
各々の姿形さえ自由自在な彼女たちは今どこで何をしているのか、何人いるのか、彼女は黙して語らない。自分でも把握していないのだなどとさえ嘯く。
果たして世界のどこに自分がいるのか、どの姿なのか、どのような人生を歩むのか。
どこかの世界、どこかの役にて貴方と隣り合うスターシステム。
その群体の、軍隊の行方は誰も知らない。
漂流者/天使の階。
共演者(スター・シスター)、
有栖川あやめ。
◆
「……なんてことやってるのが私の姉なんですよ。困ったもんですよね。」
UGN支部長室の椅子に座った”有栖川あやめ”は、人ごとのようにそう言うと、音を立てて茶を啜る。
その周りでは、彼女と同じ姿形をした有栖川の分体たちが、掃除に事務にとせわしなく駆けずり回っていた。
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※注
このPCは悪い子ではなく、大本のあやめを止めようとしております。
そのため返信する際も区別がつくようにしたりなどしています。(髪飾りなどに番号のモチーフが取られている、など)