湯野沢　嬉々はUGN野場市支部の支部長である。UGN野場市支部は探偵事務所を名乗っており、「調査」と称して街の動向を伺っている。名目上は嬉々が所長ということになっているが、実態的には支部員が組織の運営の大半を担っている。

なお、嬉々は人間ではない。レネゲイドビーイングと呼ばれる存在である。

レネゲイドビーイングはレネゲイドそのものが人格と力を得た存在である。個体ごとに有する人格や力の性質は異なるが、その方向性はレネゲイドビーイング成立の核となるもの、「起源」（オリジン）によって左右される。

嬉々の場合、その「起源」は「伝承」（レジェンド）に分類される。これらのレネゲイドビーイングは神話や都市伝説といった「情報」を存在の核としており、その内容に即した人格や力を有する場合が多い。

嬉々の核となった伝承は、日本各地に古来より伝わる「狐火」と呼ばれる伝承である。これらの伝承には土地ごとに細部の違いが見られるものの、その多くにおいて人知を超えた発火現象に対する畏怖を綴ったものであるという点は共通している。嬉々がサラマンダーのシンドロームを有し、火炎の取り扱いに長けている点も、この「起源」を考慮すれば順当なものである。

多くのレネゲイドビーイングにとって人間の心理とは興味の対象である。それは嬉々も例外ではなく、街も支部も、彼女にとっては飽きることのない演目のようなものである。とりわけ、嬉々は人の「悩む姿」に興味を惹かれている。多くの場合、懊悩の中にある者は自身の半生と願望を秤にかけているからだ。その姿から得られる知見は少なくない。

嬉々にとってUGNは、「人と共に過ごす時間」を与えてくれる組織でもある。そしてその時間の中には、嬉々の見たいものも数多く含まれている。嬉々がUGNに協力するのは、衣食住の確立以上に、その報酬が「美味しいから」である。